研究課題/領域番号 |
23K13926
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
都筑 正行 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 講師 (40845616)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 青枯病菌 / 鉄 / トランスクリプトーム / 転写制御因子 |
研究実績の概要 |
本研究では、難防除病害「青枯病」の原因となるグラム陰性植物病原細菌、青枯病菌(Ralstonia solanacearum species complex)において、環境中の鉄濃度の違いがもたらす振る舞いの変化に着目し、振る舞いの変化をもたらす仕組みについて明らかにすることを目指す。令和5年度は、計画通り青枯病菌の異なる鉄濃度におけるトランスクリプトーム解析を行い、鉄濃度依存的に起こる遺伝子発現の変化を、トランスクリプトームレベルで明らかにした。Fe(II)とFe(III)存在条件を比較し、安定的にデータが得られたのはFe(II)であったため、Fe(II)存在条件、鉄非存在条件でそれぞれ生育した青枯病菌OE1-1株からRNAを抽出し、RNAシーケンシングによりトランスクリプトームを取得した。得られたトランスクリプトームを用いて比較解析を行い、Fe(II)存在条件と比較して、非存在条件で発現が有意に変動した遺伝子群を二価鉄誘導・抑制遺伝子として抽出することができた。これらの遺伝子群の特徴をあきらかにするため、Gene Ontology(GO)解析を行った。その結果、鉄獲得を行う鉄キレート化合物であるシデロフォア関連遺伝子の発現が鉄非存在条件において上昇していた。また、その他の鉄獲得に関連するGOタームを持つ遺伝子群の発現が上昇していた。加えて、鉄結合性の転写制御因子として報告のあるFerric uptake regulatorに着目し、変異体作出を行った。ゲノム配列の情報から、青枯病菌にはFurをコードする遺伝子は2つ存在することが示唆されており、それぞれの遺伝子の欠損変異体を作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、青枯病菌における鉄濃度に依存したトランスクリプトームの変化を明らかにすることができ、また代表的な鉄関連転写制御因子であるFurの変異体株を作出することができた。これは、当初の研究計画と概ね一致しており、順調に進展していると判断した。トランスクリプトームを取得するために生育条件に関しては、予備的な研究から明らかになっていた凝集度合いを指標に検討した。Fe(II)存在条件では、その濃度以上では凝集状態が安定的になる濃度を得ることができたため、その濃度をスタンダードとした。一方Fe(III)に関しては、振る舞いが安定しなかったため、今回はFe(II)の有無で実験を行うこととした。Furの変異体作出に関しては、Fur2の変異体取得に時間がかかったが、最終的に変異体株が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の進捗を踏まえて、令和6年度は以下の方針で研究を進める。まず得られたfur1欠損変異体とfur2欠損変異体の2つの変異体株に関して、表現型解析を進める。表現型解析は、Fe(II)存在条件・非存在条件の2条件で、凝集度、菌体外多糖産生量、運動能をOE1-1株と比較する。これにより、Furがどのように細菌の振る舞いに影響を持つのか、そして鉄濃度がそれぞれのFurのはたらきに対してどのように影響するのかを明らかにする。また、それぞれの変異体をトマト根部から感染させ、病原力試験を行う。これにより、2つのFurがそれぞれ病原力に影響するかどうかを明らかにする。続いて、2つのFur遺伝子発現にどのように影響を持つのかを明らかにするため、fur1欠損変異体、fur2欠損変異体それぞれをFe(II)存在条件、非存在条件で生育した後、RNAを抽出し、RNAシーケンシング法によりトランスクリプトームを取得する。得られたトランスクリプトームを、OE1-1株のデータと比較解析し、Fur1、Fur2がトランスクリプトームに与える影響を明らかにする。特に、令和5年度に得られた鉄濃度依存的に発現変動する遺伝子群への影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたFe(III)存在条件でのRNAシーケンシング解析のデータ取得を見送ったことが主たる原因である。条件検討を行い、次年度にデータを取得するために使用する予定である。
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