研究実績の概要 |
いもち病菌のエンバクへのホストジャンプ成立の可能性を検証するために、まず、いもち病菌の微弱な病原性の増大に関与する原因遺伝子の同定を試みた。コムギ菌Br48、Br48のPAT1破壊株Br48ΔPAT1、エンバク菌Br58、ライグラス菌TP1、TP1のPAT1破壊株TP1ΔPAT1、セイヨウチャヒキ菌Ast1を感受性エンバク品種にドロップ接種し、病斑面積を計測することで感受性品種上に認められる微弱な病原性を定量的に評価する実験系を構築した。本法で解析したところ、Br58とBr48ΔPAT1間で病原性の差が認められ、これらを交配したF1集団を作出し、病原性の分離分析を行った。その結果、病斑形成面積の大きい菌系と小さい菌系が1:1に分離し、1つの遺伝子が微弱な病原性に関与していることが示唆され、これをPAT2と命名した。今後、バルクシーケンス法を活用した分子マッピングを試みる。 次に、未だ打破されていない抵抗性エンバク品種に対する非病原力遺伝子の単離を試みた。Br58およびBr48ΔPAT1に抵抗性を示すエンバク品種のうち、Ot-5はRbl1、Ot-22はRbl2という単一の抵抗性遺伝子を保有し、抵抗性を発揮している。これらの品種に対して病原性を示す野生いもち病菌株は未だ見出されていないが、非病原性菌株同士を交配したF1菌系の中からOt-5, Ot-22に病原性を示す菌系(Yt1R53, Yt1R9)をそれぞれ得ることに成功した。そこで、Rbl1, Rbl2に対応する非病原力遺伝子(AVR-Rbl1,AVR-Rbl2)を同定するために、2つの交配集団を作出した。そのうちの一つにおいてAVR-Rbl2が単独で分離することを確認した。分子マッピングを試みたところ、AVR-Rbl2は第5染色体上に座乗することが示唆された。
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