研究課題/領域番号 |
23K13988
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
細川 奈々枝 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80821602)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | リン / 多地点サンプリング / 地球統計学 / 濃度分布 |
研究実績の概要 |
一般に、リンやpHなどの土壌化学性は樹木成長差に大きく影響する。しかし、植栽地の土壌化学性の空間分布は推定が難しいことから、林地における研究は進んでいない。本研究では、土壌化学性の空間分布を推定し、林分内の土壌化学性のばらつきと樹木成長の関係を明らかにすることを目的とする。本年度は、一ヶ所の林分で調査を行うとともに、翌年度の調査候補地を検討した。長野県塩尻市に位置する20年生ヒノキ林に縦30m横40mのプロットを設置し、約8m間隔で0~5cmの土壌を100mlの円筒を用いて採取した。土壌は林野土壌分類体系における適潤性黒色土である。採取した土壌のpH(KCl)、 酸性シュウ酸塩可溶のアルミニウム(Alo)および鉄(Feo)、ピロリン酸塩可溶のAl(Alp)、可給態リン酸(Bray-II法)を測定した。得られた値を用いて、林分内の土壌化学性の空間分布を逆距離加重法によって推定した。また、プロット内のヒノキの樹高と位置を測定した。 プロット内のヒノキは樹高5.5~15mの範囲で成長差が生じていた。樹高の高い個体の空間分布は偏ってはいなかった。pH(KCl)は3.1~4.1、Aloは12.8~35.5g kg-1、Feoは12.1~21.0g kg-1、Alpは12.1~24.5g kg-1、可給態リンは12.4~39.2mgP kg-1の範囲でばらついた。各化学性同士の相関を求めたところ、Alo、Feo、Alp、pH(KCl)の間にはそれぞれ正の相関があったものの、可給態リン酸はどの化学性とも明瞭な関係を示さなかった。化学性の空間分布はそれぞれ異なるパターンを示した。土壌化学性の空間分布と樹高の空間分布を重ね合わせたところ、樹高と土壌化学性の間には明瞭な関係は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は当初の計画通り長野県塩尻市のヒノキ林を調査地として土壌を採取し、その化学性の測定を行った。年度内には採集したサンプル数は十分にあったが化学分析が終了していないものがあり、十分な解析が行えなかった。しかし、得られたデータだけから解析した結果その分布を地図化してみたところ、各化学性の空間分布を示すことができ、データの傾向や特徴を掴んだことから今後の方向性を確認した。結果をペドロジー学会において「平坦なヒノキ林における林分内の土壌化学性の空間分布と樹高の関係」というタイトルでポスター発表し、「他の土壌化学性、例えば塩基類等の測定をしてみてはどうか」という意見を得ることもできた。また、施業履歴が明白であること、品種まで判明したヒノキ林であるという点に着目して、翌年度の調査地を大分県九重地域のヒノキ林に設定することにし、その利用許可申請をおこなっている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度採取したサンプルのうち、終了していない化学分析をおこない、その土壌化学性の傾向と特徴を把握し、空間分布を図化するとともに他の化学性との関係や植物の成長との関連を検討する。さらに本年度調査地である大分県九重地域で土壌採取をおこない、その分析を行う。各化学性については植物成長量との関連を探り、また昨年度長野県塩尻市で採取したサンプルを用いた結果とも比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた植物体のパウダー化に用いる粉砕機の価格が外為の影響で高騰したため購入できず、一度に粉砕する容量が小さい仕様の機器を購入することになった。機能を比較すると若干劣るところもあるが、使用に耐えられるものであったことから、結果的に大幅な予算の節約ができた。今年度はこの余剰分も活用して、サンプル採集に関わる人件費等に割り当て、より効率的にデータを収集して本研究課題の「土壌化学性のばらつきと樹木成長の関係を明らかにする」という目標の達成につなげたい。
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