研究課題/領域番号 |
23K14053
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
有賀 智子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (40784111)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 産地判別 / ストロンチウム同位体比 / 米 / トレーサビリティ / トリプル四重極ICP-MS / マルチコレクターICP-MS |
研究実績の概要 |
【研究の具体的な内容】 本研究では、トリプル四重極誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS/MS)を用いて、煩雑な化学分離が不要な米中ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)測定技術の開発を目的としている。手法開発においては手法の妥当性確認が必要不可欠であるが、本研究では同位体比測定精度の高いマルチコレクター型 (MC)-ICP-MSによる測定値を参照値とし、その値に基づいて妥当性確認を行う予定である。2023年度は①MC-ICP-MSの測定条件の最適化と②固相抽出によるSr分離条件の最適化を行い、③最適化した手法で測定ターゲットとする米サンプルの87Sr/86Sr同位体比を測定し参照値を決定した。 【研究の意義・重要性】 ②Sr分離条件の最適化:米をはじめとする穀類はルビジウム(Rb)やカリウム(K)等の夾雑元素を多く含む一方、Sr濃度が非常に低いという特性を有する。RbはMC-ICP-MSを用いた87Sr/86Sr測定において深刻なスペクトル干渉の原因となるため完全な除去が必要であり、Kは固相抽出によるSrの回収率を低下させるため注意が必要である。穀類のこれらの特性は固相抽出によるSr分離を困難にしており、効率的なSr分離のためには分離条件の検討が必要不可欠である。しかしながら、先行研究では穀類に関してこのような検討を行った例はなかった。本研究では穀類をターゲットに分離条件の検討を行い、Sr回収率95 %以上、Rb/Sr濃度比0.001 %以下という良好な分離を達成できた。この内容については論文として取りまとめ、現在投稿中である。 ③参照値の決定:測定ターゲットとする米サンプルの87Sr/86Sr同位体比参照値を得られたことから、この値を基準として2024年度以降順次行う予定であるICP-MS/MSを用いた手法開発の妥当性確認を行うことが可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は研究開始時の実施計画の通り、①MC-ICP-MSの測定条件の最適化と②固相抽出によるSr分離条件の最適化を行い、③最適化した手法で測定ターゲットとする米サンプルの87Sr/86Sr同位体比を測定し参照値を決定した。研究の結果については論文として取りまとめ現在投稿中であり、本研究は順調に進展している。なお、設備備品として当初購入予定であった「ペティエ温調スプレーチャンバー」と「マイクロシリンジポンプ」は代用品を使用可能であったため、購入しなかった。余剰分の研究経費は円安の影響で価格が上昇している「固相抽出カラム」等の消耗品の購入に充てる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度以降は下記の検討を順次行う。①リアクションガス種と反応条件、測定条件の最適化:ICP-MS/MSで使用するリアクションガス種とガス流量等の反応条件を最適化するとともに、同位体比測定精度向上のためにイオン信号の積分時間、積算回数等の測定条件の最適化を行う。また、後述のように本研究では88Sr/86Sr同位体比の質量差別効果補正係数を87Sr/86Sr同位体比の補正に利用する予定であるが、天然での88Srと86Srの同位体存在度はそれぞれ82.6 %と9.9 %と10倍程度の開きがあることから、ICP-MS/MSによる測定では両者のPAファクターの設定を工夫する必要がある。そこでPAファクターの調整も行う。②質量差別効果の補正方法の検討:同位体比測定における質量差別効果補正の手法として、一般的には88Sr/86Sr同位体比の質量差別効果補正係数を利用した内部補正法のほかNIST SRM 987を用いた挟み込み法等が用いられている。米はKやCa等多くのマトリクス元素を含むため挟み込み法での補正が難しいと考えられることから、本研究では主に内部補正法を用いた質量差別効果補正手法を検討する。③測定法の妥当性確認:2023年度にMC-ICP-MSにより求めた参考値を用いて測定法の妥当性確認を適宜行いながら条件検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では固相抽出カラム及び硝酸等の試薬類を購入する予定であったが、実験に必要な数量を十分確保できていたこと、また固相抽出カラムには使用期限が存在するため使用時にその都度購入する形にしたかったことから、購入計画を変更し来年度以降に購入することとした。この変更に伴い差額が発生し次年度使用額が生じた。
|