研究課題/領域番号 |
23K14085
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
辻 竣也 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (80898370)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 骨粗鬆症 / 細胞老化 / 破骨細胞 / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症は破骨細胞の異常な活性化を病態の基盤とした骨の脆弱化を特徴とする疾患で、加齢は重要な危険因子であり、発症原因や予防、治療法の確立が急務となっている。原発性骨粗鬆症では、激しい炎症反応を伴っていないとする考えがこれまでの主流であるが、近年の老化研究より、炎症老化と呼ばれ、加齢とともに我々の体内では炎症反応のベースが上昇していることが知られている。炎症反応を引き起こす原因はさまざまであるが、細胞老化を起こした細胞(老化細胞)があらゆる臓器に蓄積することも大きな原因の1つである。老化細胞は、発がんの危険性のあるさまざまなストレスによりp16やp21の発現に起因する、不可逆的な細胞周期の停止現象であり、異常をきたした細胞が体内で増殖しないようにする重要ながん抑制機構である。老化細胞は単に増殖を停止しているのみならず、senescence associated secretory phenotype(SASP)と呼ばれ、さまざまな炎症物質を放出する表現型を取ることが知られている。一方で、炎症局所では、破骨細胞は通常の破骨細胞とは異なるサブタイプとなり、骨吸収能の上昇や骨吸収阻害薬であるビスホスホン酸製剤に対する耐性を獲得するなどが知られる、炎症性破骨細胞となることが知られている。そこで、本研究では老化骨芽細胞が局所的に炎症性破骨細胞を誘導し、骨粗鬆症を引き起こす原因となっているのではないかと仮説を立てた。現在、公開されているsingle cell RNA sequence解析から、老化と共に体内の骨芽細胞が細胞老化を起こしていることを明らかにした。さらに、炎症性破骨細胞と生理的な破骨細胞の分化様式や機能的な差を調べている最中に、生理的な破骨細胞の分化に、細胞周期の停止を引き起こす因子の1つであるp15Ink4bが関与していることを明らかにし、現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、主に1. 老化骨芽細胞の機能解析、2. 炎症性破骨細胞の機能解析、3. 老化骨芽細胞と炎症性破骨細胞の生体内での関連の解析の3つの柱で成り立っている。現在並行して進行中であり、老化骨芽細胞の機能解析では、マウス骨芽細胞では細胞老化誘導法が確立できており、その性状を解析中である。また、複数の老化細胞を比較し、老化骨芽細胞の標的となる分子の探索を行なっている。炎症性破骨細胞の機能解析では、関節リウマチなどで発現上昇が認められるサイトカインであるIL6、TNFにより誘導される破骨細胞を炎症性破骨細胞とし、機能解析中である。その解析の最中、我々は、新たに破骨細胞の分化に重要な細胞周期チェックポイント因子である p15Ink4bを同定した。これまで生理的な破骨細胞の分化には細胞周期の停止が必要であることが知られていたが、その実態は依然として議論の余地があった。我々はsingle cell RNA sequenceデータを解析することで、有意に成熟破骨細胞で発現が上昇している細胞周期チェックポイント因子を明らかにし、p15Ink4bのノックダウンで破骨細胞形成が著しく抑制されることを見出し、現在、論文投稿中である。生理的な破骨細胞の分化機構の詳細を明らかにすることは、炎症性破骨細胞の性状理解に非常に重要であり、研究遂行に大きく貢献する結果が得られているため、予定以上の進行であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では3つの観点からの研究を遂行していく予定である。 項目1:老化骨芽細胞の機能解析、項目2:炎症性破骨細胞の機能解析、項目3:老化骨芽細胞と炎症性破骨細胞の生体内での関連の解析 項目1 正常な骨芽細胞と老化骨芽細胞の性状比較を行う。現在老化骨芽細胞の作製は完了しているため、今後は、正常な骨芽細胞と比較し、分化能や、遺伝子発現や分泌因子、エクソソームなどに注目した解析を行い、老化骨芽細胞の性状を明らかにする。また、様々なヒト老化細胞との違いについても解析する。これらと並行し、老化骨芽細胞の培養上清による破骨細胞誘導法の確立を行う。 項目2では、炎症性破骨細胞誘導シグナルの同定を行う。先行研究より、RANKL+M- CSF+TNF刺激で、FoxM1が活性化することで炎症性破骨細胞が誘導できることが報告されている。そこで、RANKL+M-CSFのみで誘導される破骨細胞と比較し、どのようなシグナルが動いているのかをFoxM1の制御因子に注目し解析する。具体的にはp38-MAPK、RAS、 PI3K/Aktシグナル等を検討する予定である。並行して、正常破骨細胞、炎症性破骨細胞、老化骨芽細胞の培養上清により誘導される破骨細胞の違いの検討を行う。その後、該当遺伝子の機能を培養細胞を用いて検討することで、治療標的としての有用性を明らかにしていく。 項目3では、マウスの解析を行い、加齢により老化骨芽細胞が出現し、その周囲に炎症性破骨細胞が出現するのかを検討する。同一個体内で、上腕骨の方が大腿骨よりも加齢に 伴う骨減少が少ないことが報告されている。そこで上腕骨と大腿骨において老化骨芽細胞や炎症性破骨細胞の出現頻度を検討し、相関解析を行う。最終的には、ヒト臨床検体を使用し、老化骨芽細胞や炎症性破骨細胞が出現して、これまでの解析結果で得られた特徴を持っているのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定通り物品の購入が行っていたが、わずかに来年度に持ち越すことになった。その原因として、価格変動に伴い、これまで使用していた物品を、見直し、さらに安価なものへと変更せざるを得なかったことが考えられる。次年度使用額は、来年度購入予定の物品費として使用する予定である。
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