研究課題/領域番号 |
23K14137
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
林 順司 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (20802101)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 酵素工学 / 酵素 / 超好熱菌 / 構造生物学 / 脱水素酵素 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高度耐熱性の色素依存性D-乳酸脱水素酵素(DLDH)の立体構造情報に基づき、基質特異性を改変し、D-α-ヒドロキシ酸類を測定可能な人工酵素を開発することである。本研究はバイオ電池やバイオセンサーの素子として有用な色素依存性脱水素酵素の人工設計技術の構築において重要な役割を果たすと考えられる。 これまでにAeropyrum pernix由来のDLDH(ApeDLDH)のFAD非結合型の構造情報の取得に成功している。2023年度は本酵素のFAD結合型の構造情報の取得を目指し、FADに対する親和性を向上させた変異酵素の作製と変異酵素のX線結晶構造解析に関する研究を展開した。本酵素に計8か所の変異を導入し、野生型酵素では約1mMであったFADに対するKm値を200倍に低下(Km=5uM)させることに成功した。また本変異酵素の結晶化にも成功し、FAD結合型構造の取得に成功した。構造解析により、本変異酵素では既知のFAD依存性酵素と同様にFAD のピロリン酸がループ構造により保持されていた。野生型酵素では本ループ構造がディスオーダーしており、ApeDLDHはこのループ構造の柔軟性が高く、FAD の結合性が極端に弱くなることが予想された。 また、本酵素のFADのイソアロキサジン環周辺には亜鉛が存在し、それをアミノ酸残基H380、H387、E424が取り囲むように配置されていた。さらにH425がその周辺に存在しており、本残基が触媒残基の可能性が高いと考えられた。これまでにDLDHの立体構造は大腸菌酵素で1例報告(Dym et al.,2000)されているが、本酵素のこれらアミノ酸残基もほぼ同様の位置に存在していた。しかし、大腸菌酵素では亜鉛の電子密度が得られていないことから、本研究でDLDHの触媒活性の発現に亜鉛が重要であることが初めて示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度において、ApeDLDHのFAD結合型の構造取得に成功した。またFAD結合部位周辺の亜鉛を見出し、触媒残基も推定された。DLDHの構造情報は本酵素以外では大腸菌酵素のみであり、反応機構や基質認識機構などの詳細は不明である。本酵素の解析により、大腸菌酵素の研究では見出されていない亜鉛の情報が得られたことは、触媒機構の解明にとって大きな成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は基質結合状態の構造を取得することで基質認識機構の解明を行う。既にFAD結合型の情報が得られているため、基質であるD-乳酸あるいはピルビン酸を加えた共結晶の作成を行う。また、H425の変異酵素を作製し、活性の変化を調査する。本研究を通して、これまで不明であったDLDHの触媒機構および基質認識機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究助成金にて当初計画していた結晶化キットを購入できたため、約33万円の繰り越し金額が生じた。2024年度では、変異酵素の基質結合型構造を取得するため、結晶化用プレートおよび結晶化試薬を大量に必要とする。また、変異酵素作製において変異導入キットを大量に購入する予定である。繰越金を有効に活用し、これらの試薬・消耗品の購入に充てる。
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