研究課題/領域番号 |
23K14196
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
篠塚 琢磨 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70869023)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | グリア細胞 / 脊髄 / マウスES細胞 / in vitro神経分化 / Wntシグナル / Shhシグナル |
研究実績の概要 |
1)マウスES細胞からのグリア細胞への分化条件の確立 領域特異的なグリア細胞の分化メカニズムをin vitroで明らかにするため、まず、マウスES細胞を用いて多様な神経細胞、グリア細胞への分化システムの確立を行った。マウスES細胞に特定の濃度、組み合わせでShhやWntなどの細胞外シグナル因子を添加することにより、それぞれ領域特異的な神経前駆細胞を特徴づける転写因子を高発現する4種類の神経前駆細胞群を分化させる条件を確立した。これらの神経細胞に対して成長因子を作用させることにより、グリア前駆細胞群へと分化させた。さらに、栄養因子を添加し培養期間を延ばすことでグリア分化を促進し、グリア細胞群の作製を行った。これらの細胞群では培養期間に応じて段階的に、グリア細胞の成熟度の指標となるSox10, Plp1, GFAPといった既知の遺伝子発現が変化したことから、分化段階が異なる細胞群の作製に成功したと結論づけた。 2)in vitro分化誘導システムを用いたグリア細胞の網羅的遺伝子発現解析 作製した領域特異的な4種類の神経前駆細胞群、および、それらの神経前駆細胞から分化させた、グリア前駆細胞群、グリア細胞群の計12種類の細胞群を用いてRNAシーケンス法による網羅的遺伝子発現解析を行った。まず、主成分分析の結果から確立した分化方法によって作製した細胞群は、それぞれ異なる遺伝子発現プロファイルを持つことが確認された。次に、各々の既知の遺伝子発現を比較した結果、領域特異的、分化段階特異的な遺伝子発現がそれぞれの細胞群で確認されたため、時空間的に異なる神経前駆細胞、グリア前駆細胞、グリア細胞の遺伝子発現データセットの確立に成功したと結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、マウスES細胞から特定の神経前駆細胞、グリア細胞を分化させる系を確立した。次に、それらの作製した細胞群でRNAシーケンスによる網羅的遺伝子発現解析を行い、各細胞群の遺伝子発現データセットを確立した。現在、特定の細胞群で特異的に発現する遺伝子をリストアップしin vivoでの発現解析を行い、多様なグリア細胞を規定するマーカー遺伝子を探索している。このように本研究はおおむね順調に進行し、マウス生体を用いてグリア細胞の多様性が生み出される分子メカニズムを解析するための研究の基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
in vitroで分化させた細胞群を用いて行った網羅的遺伝子発現解析によって得られた遺伝子発現データセットをもとに、実際に生体内で特定のグリア細胞で発現する遺伝子の探索を行う。まず、マウス胚をもちいてin situハイブリダイゼーション法によるmRNA発現解析を行い、時空間的な遺伝子の発現パターンを明らかにする。次に、ニワトリ胚をもちいた強制発現と、ES細胞においてCRISPR/Cas9法をもちいた機能欠損を行い、領域特異的なグリア細胞の分化に関わる遺伝子の探索を行う。最後に、特定のグリア細胞が神経発生や神経機能に及ぼす影響を個体レベルで明らかにする。これらの研究により、多様なグリア細胞の分化メカニズムとその生物学的意義を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画に比べて、in vitroでの実験を拡充し、ES細胞からの分化条件をより細かく検討し作製する細胞群の種類を増加させた。これにより、マウス胚を用いた実験が後ろ倒しになったため、次年度使用額が生じた。これらの助成金は当初の計画通り、マウス胚を用いた遺伝子発現解析に使用する。
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