研究課題/領域番号 |
23K14203
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
足立 透真 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 病態生化学研究部, リサーチフェロー (70911973)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 小脳顆粒前駆細胞 / 大脳皮質 / 二段階神経細胞産出 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、マウス小脳の顆粒細胞(Granule Cells, GCs)をモデル神経細胞として「多段階の神経細胞産出の分子的基盤と脳拡大への寄与」を明らかにすることである。申請者所属研究室では、先行研究課題において、増殖性の小脳顆粒細胞前駆細胞(GC Progenitors, GCPs)には「未分化なAT+GCPs」と「少し分化したND+GCPs」の二種類があること、そして小脳発生過程でAT+GCPsが少しずつND+GCPsへと遷移する二段階の神経細胞産生機構(Indirect neurogenesis)が存在すること(AT-ND Transition)を見出した(Miyashita et al., 2021. EMBO J)。この小脳における二段階の神経細胞産出機構は哺乳類から獲得された機構であり、鳥類や爬虫類においては存在しない。この現象は大脳皮質における進化の過程での二段階神経細胞産出機構の獲得と酷似したものである。 申請者は本研究において、胎生期大脳皮質(E14.5)由来のデータと小脳GCP lineage(E18.5)を抽出したデータを用いて、MAGIC Imputation 解析を行った。そして、それぞれ神経細胞の生み出しが直接経路(Direct neurogenesis)と間接経路(Indirect neurogenesis)に分けられること、WGCNAモジュール解析により、それぞれの領域のIndirect neurogenesisにおいて共通する遺伝子モジュール(茶色モジュール)が存在することを発見した。すなわち、異なる脳領域におけるIndirect neurogenesisが共通の分子基盤によって制御されている可能性を示唆するデータを得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、胎生期大脳皮質(E14.5)由来のデータと小脳GCP lineage(E18.5)を抽出したデータを用いて、MAGIC Imputation 解析とWGCNAモジュール解析を実施した結果、それぞれの領域のIndirect neurogenesisの開始時において発現が上昇する共通する遺伝子モジュール(茶色モジュール)が存在することを発見した。 現在Gene Ontology(GO)やGESA (Gene Set Enrichment Analysis)を行い、茶色モジュールでヒットしてくる生物学的プロセスや遺伝子セットをより詳細に絞り込むことで、茶色モジュール全体の発現を制御するシグナルの解明を目指している。 また、AT+GCPsに電気穿孔法による遺伝子導入を実施し、12時間で固定をすることによって、Direct neurogenesis(ND+GCPsを介さずに直接GCsへと分化する)とIndirect neurogenesis(ND+GCPsを介して分化する)を切り分ける系の開発に成功した。この系と過剰発現、発現抑制(KD)実験を組み合わせることによって、Indirect neuogenesisを制御するキー遺伝子の解明を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
茶色モジュールの遺伝子群をGene Ontology(GO)にかけたところ、興味深いことに、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化経路に関与した遺伝子群をはじめとする代謝経路に関与する遺伝子群が濃縮されていることがわかった。これらの結果から、我々は現在、大脳と小脳におけるDirect、 Indirect neurogenesisのスイッチは、それぞれのNeurogenesis時に異なる代謝経路が駆動することにより誘導されているのではないかと考えている。我々はこの可能性も念頭に入れ、研究を進行していく予定である。 また、我々はこれまでに、ATOH1-GFP融合タンパク質を発現するノックイン(KI)マウス(Atoh1-GFP-KI)とKI67-RFP融合タンパク質を発現するKIマウス(Ki67-RFP-KI)を掛け合わせ、EGLにおいてAT+GCPsが黄色(緑+赤)に、ND+GCPsが赤でラベルされるマウスを作製し、FACSでそれぞれの色のGCPsと無色のGCsをソートすることに成功している。さらに、これらの細胞をもとに、bulkのRNA-seqを実施し結果を得ている。この結果におけるND+GCPs特異的に発現が高い遺伝子群と前述した茶色モジュールにおける遺伝子群を比較検討し、Indirect neurogenesisにおいて重要なキー遺伝子の解明を合わせて目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年開発したIndirect neurogenesisとDirect neurogenesisを切り分ける系を開発するために資金を準備していたが、思いの外うまくいったため、予算が浮いた。1. 来年度以降に大脳皮質でも同様の系が確立できるかどうかを検証する。2. 現在進めている解析の結果によっては、小脳皮質と大脳皮質の両方において、より長い配列を読むdeep single cell RNA-seqを実施する必要が出てくる。浮いた分の予算はそれらの実験費用に充てさせていただきたい。
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