研究課題
本研究は、シロイヌナズナを用いて葉原基で発現する遺伝子、またはそのアンチセンスを葉原基特異的プロモーター下で発現させ、スクリーニングにより葉序に異常が出る変異体を取得すること、またコスツスを用いて、誘導作用の実体が葉原基からのオーキシンそのものであるという仮説を検討することを目的としている。当該年度は国際情勢の不安定化により、シロイヌナズナで計画していた新たな変異体スクリーニングに必要な均一化cDNAライブラリの作成を実施できなかったが、葉原基による葉序パターンへの影響を突き止めるために構築を進めていた数理モデルが、その自由度の高さからキク科植物の頭状花序パターンの解析に転用できることが分かるなど、予想外の進展もあった。またコスツスについては、オーキシン輸送の可視化に必須の、PIN1ホモログのアミノ酸配列の同定に至った。また、高濃度のIAAの添加により、確率的に二列互生様のパターンが生じることを確認した。このことは、IAA自身が葉原基形成位置の誘導要因として機能し得る可能性を示しており、葉序パターン形成機構の重要な新知見になることが期待される。ただし、依然として確率的な現象であり、今後の研究のためには、さらに安定な形成条件の探索が必須である。今後、シロイヌナズナ茎頂の均一化cDNAライブラリの作成を進めるとともに、コスツスにおいてより安定にパターンが変化する条件を探すこと、またコスツスにおけるオーキシン輸送の可視化の試みを継続する。
2: おおむね順調に進展している
国際社会の情勢不安により、当初輸入を予定していたcDNA量の均一化に必須のキットが入手不可となってしまったため、シロイヌナズナの分子生物学実験の開始ができなかったことが挙げられる。そこで、研究計画を入れ替え、キットを用いない代替手段を考案するとともに、様々な形状の茎頂で葉序生成シミュレーションを行うことができる系の考案を行うことで、本研究の遂行を継続した。また、コスツスにおいて高濃度のIAAを与えると、確率的に葉序が二列互生的になることは確かめられた。このことは葉原基形成位置決定に必要な未知の作用も既報の植物ホルモンで説明づけられる可能性を示す重要な結果である。ただし、さらなる実験のためには、系の安定化が必須である。一方で、コスツスのオーキシン輸送動態の可視化に向けて、コスツスにおけるPIN1配列の同定に至った。結果として、生物学的に新しいことはほとんど判明していないものの、実験系の整備を進めることで、残りの期間で実験を遂行するのに十分な環境を構築することができたため、当該の評価となった。また、シロイヌナズナでの葉序シミュレーションに向けて構築したシミュレーション系が、他植物で見られる葉序パターンの変化に応用できることが分かった。キク科植物の頭状花序の研究課題にシミュレーション系を完全に転用できることが分かり、メリステム形状によって原基間相互作用に変化が生じる例であることを検証できるようになるなど、予想外の展開を見せている。
cDNA量の均一化の見通しが立ったため、第一にシロイヌナズナ栄養茎頂・花茎頂におけるcDNA均一化ライブラリを作成する。また、計画に遅れが出ていることから、特に効果が見込めるアンチセンスによる器官特異的ノックダウンを優先的に形質転換を試みる。コスツスの葉序パターンの変化の研究について、より安定した結果の出る実験系の確立を行う。現在はイオン化したIAAを高濃度に与えることで、葉序パターンの変化が確率的に起こることを確かめているが、他の与え方でも同様の結果が得られるかを確かめる必要がある。また、同定したPIN1配列を元にペプチド抗体を作製し、免疫染色に供する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
Plant And Cell Physiology
巻: 64 ページ: 1262~1278
10.1093/pcp/pcad105
Journal of Plant Research
巻: 137 ページ: 143~155
10.1007/s10265-023-01503-2