研究課題/領域番号 |
23K14234
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
西嶋 遼 福井県立大学, 生物資源学部, 助教 (00841561)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遺伝子量補正 / 常染色体 / 異質倍数性コムギ / 端部動原体染色体系統 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
遺伝子量補正とは、主に動物の性染色体で知られる現象であり、遺伝子の発現量が雄と雌との間で同レベルに調節される機構のことである。しかし近年、雌雄異株植物ヒロハノマンテマの性染色体やシロイヌナズナの常染色体においても、部分的なヘテロ欠失に対する発現量補正の存在が示されつつある。その一般性を証明するためには、遺伝子量補正を受ける遺伝子と受けない遺伝子の機能的特徴の記述が求められるが、先述のヘテロ欠失では調査可能な遺伝子数の不足が障壁となり、理解は進んでいない。そこで本研究では、染色体腕を丸ごと失っても生存できる異質倍数性コムギを材料にトランスクリプトーム解析を行い、同祖遺伝子間の遺伝子量補正の有無を検証する。補正を受ける遺伝子に共通する機能的特徴や染色体配置を染色体腕全長にわたって評価することで、ゲノムの構造変化に対する植物の遺伝子変動応答の詳細を明らかにする。 当初の計画では開花後1週間時点の登熟種子をサンプルとする予定であったが、開花時期やその時の気温、種子形成のスピードが系統によって大きく違ってしまうことから、同一の生育ステージ・同一の生育環境での遺伝子発現プロファイルの比較が困難になると考え、サンプルを幼苗に変更した。令和5年度春の胚乳のサンプリングを見送った個体から収穫した種子をバイオトロンで生育し、第4葉展開時の第3葉をサンプリングした。現在、BrAD-seq法(Townsley et al. 2015)による全長cDNAライブラリの調製がほぼ完了している。 並行して、シロイヌナズナのヘテロ欠失系統群のRNA-seqデータの解析を行なった。ロゼット葉、抽台後の葉および蕾の遺伝子発現解析を行なったところ、ロゼット葉と蕾で遺伝子量補正の傾向が強い結果となった。しかし、補正を受ける遺伝子の絶対数の不足から、GO解析等ではその特徴は捉えられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
同一の生育ステージ・同一の生育環境での比較を優先すべきと考え、当初予定していた開花後1週間の登熟種子から第4葉展開時の第3葉にサンプルを変更した。その結果、ライブラリ調製の時期が年度末にずれ込み、未だシーケンス解析に進めていない。
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今後の研究の推進方策 |
調製済みのライブラリのシーケンス解析を外注する。パンコムギ参照配列(the IWGSC RefSeq v2.1 from URGI repository: Alaux et al. 2018 Genome Biol.)に対してリードをマッピングし、同祖遺伝子ごとの発現量を得る。ABDの3つのサブゲノム全てで揃っている53259の同祖遺伝子群について(Ramirez-Gonzalez et al. 2018 Science)、各端部動原体染色体系統のもっていない染色体腕ごとに1)2つの同祖遺伝子、2)片方の同祖遺伝子、3)もう片方の同祖遺伝子による遺伝子量補正が確認される遺伝子群と、4)遺伝子量補正が確認されない遺伝子群に分類する。各グループについてGO解析や染色体配置の確認を行い、何らかの特徴がないか検証する。また、得られた結果をもとにシロイヌナズナのヘテロ欠失系統群のデータに立ち返り、種間で共通する法則性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
サンプル変更に伴いライブラリ調製が遅れ、NGS解析の外注が次年度にずれ込んだ。次年度使用額は本件およびデータ解析とバックアップに必要なハードディスクの費用等に充てる。
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