研究実績の概要 |
日本列島のほぼ全域に分布するチャバネアオカメムシの必須腸内共生細菌には種内多型が見られ、本州個体群では単一の共生細菌Pantoea sp. A(共生細菌A)に固定しているのに対し、南西諸島個体群では優占する共生細菌Pantoea sp. B(共生細菌B)に複数の共生細菌C,D,E,Fが共存している。これまでに主要な共生細菌AとBを個体群間で入れ替えると宿主の羽化率が極端に低下する不和合性を示すことから、宿主と共生細菌が各地域で共進化していると予想された。このような共生進化に見られる特異性は種分化等において重要な役割を果たす可能性があると考えられるが、そのメカニズムは未解明であった。そこで本研究ではカメムシと共生細菌AとBにおける地域特異的な共生進化機構の解明をめざし、RNAseqによる網羅的遺伝子発現解析、交配実験およびQTL解析等を駆使した共生細菌A,Bの選択に関わる候補遺伝子の選抜を行った。 本年度はRNAseqによる網羅的遺伝子発現解析を実施することでアミノ酸合成や輸送系の遺伝子、さらには免疫関連遺伝子の発現に地域間で差異がある事を見出した。さらに交配実験による継代2世代目(F2)の表現型の分離比から共生細菌Aの選択に関わる遺伝子型の顕性であり、共生細菌Bの選択に関わる遺伝子座が潜性であることが示唆された。作出されたF2個体を対象にRADseqを用いたSNPの検出を行ない、表現型と関連する宿主ゲノム領域の絞り込みを行なった。また、カメムシ類と同様に食植性昆虫であるカメノコハムシ類の必須共生細菌Stammeraの共生様式について、近年腸内(細胞外)共生細菌であると考えられていたが細胞内共生していることを組織形態学的に明らかにした。
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