研究課題/領域番号 |
23K14243
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
荒井 直樹 神奈川大学, 化学生命学部, 助教 (80802074)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 食虫植物 / プロト食虫植物 / Ibicella lutea / プロテオーム / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
本研究は、プロト食虫植物であるIbicella luteaを材料に、根と捕虫葉の分泌タンパク質および遺伝子発現を解析し、食虫機能に関わる遺伝子の発現制御機構を解明することにある。2023年度は、捕虫葉から分泌するタンパク質の同定および各組織で発現する遺伝子の解析を行なった。捕虫葉から分泌された粘液のタンパク質をLC-MS/MSにより解析した結果、全部で50種類のタンパク質を同定・定量することに成功した。その内訳を見ると、全体の58%が生体防御タンパク質であることが判明し、プロテアーゼやキチナーゼ、グルカナーゼなど食虫植物の消化液に共通して含まれるタンパク質が多量に存在することが明らかとなった。次に、分泌されるタンパク質の遺伝子発現について解析を行なった。腺毛(捕虫器官)、腺毛を取り除いた葉、根を用いてRNA-seqを行なった結果、意外なことに、全ての遺伝子は腺毛特異的に発現してはいなかった。その半数近くの遺伝子は根でも発現しており、その中には根特異的に発現している遺伝子も存在した。分泌されるタンパク質のいくつかは根において合成され、腺毛に輸送されているのかもしれない。何れにしてもこれらの事実から、腺毛と根は密接な関係があることが伺える。さらに、捕虫葉からの栄養吸収の観点から、腺毛で発現するトランスポーターについても解析を行なった。その結果、腺毛では100個ほどのトランスポーターが発現していることが明らかになり、その中でも窒素、リン、カリウムなどのトランスポーターが高く発現していることが判明した。これらのトランスポーターは腺毛だけではなく根でも発現していることから、I. luteaは根で発現している遺伝子を葉で利用していることが強く示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、粘液に含まれるタンパク質の同定・定量および各組織で発現する遺伝子のトランスクリプトームの解析から、捕虫葉と根との関連を見出し、腺毛と根で高発現している遺伝子を抽出することができた。当初予定していた根から分泌するタンパク質の同定とゲノム解読については実施できなかったが、上記の解析から興味深い結果を得られたため、概ね順調に進んでいると評価した。実施できなかった解析についても既に材料は準備できており、すぐに解析できる状態にある。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、①根から分泌するタンパク質の同定ならびに②腺毛と根で高発現している遺伝子の制御因子の探索を行う。①に関しては、水耕栽培をしているI. luteaの溶液を回収し、そこに含まれるタンパク質をLC-MS/MSにより網羅的に同定する。②に関しては、ゲノム解読を早急に行い、腺毛と根で高発現している遺伝子のシスエレメントを探索し、発現を誘導する転写因子を予測する。その後、予測された転写因子を対象にChIP-seqを行い、発現との関連を明らかにする。また、プロモーターの近傍にCpG配列を多く含む遺伝子は、バイサルファイトシークエンスにより、発現とDNAのメチル化との関連を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室のある建物の改修工事が長引き、10月以降ほとんど実験ができなかったため、予定していたゲノム解析および根から分泌されるタンパク質の解析を実施できなかった。今年度は、本来計画している実験に加え、これらの解析も実施する予定である。
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