研究課題
どのような遺伝子に、どのような変異が入ることで、季節性移動は進化するのだろうか?何らかの共通性はあるのだろうか?季節性移動の獲得や喪失、経路や時期の分岐は、引き続く局所適応や雑種異常の蓄積を介して、種分化を促進しうる。したがって、季節性移動の違いが生じ、維持される要因の追求は、進化生態学における重要課題の一つであるが、その遺伝基盤の詳細、特に複数系統で収斂進化が起こる際の共通性については未だ不明な点が多い。課題では、イトヨ属の降海回遊喪失の遺伝基盤を同定し、遺伝的変異の獲得過程の共通性や、他の生殖隔離に関与する遺伝的変異との関係性や遺伝的変異の獲得の順番を検証することで、上述の問いを追求している。本年度は第一に、水路型の野外生簀にイトヨ属の複数系統を導入し、移動性の有無や時期などの表現型を同定することで、移動性喪失の有無についての基礎的な知見を揃えた。さらに降海回遊前、中、後にわけて、各組織から遺伝子発現比較用の材料を得ることで引き続く遺伝子発現解析に必要となる材料を得た。第二に、ゲノムワイド関連解析を実施するために、移動性の有無が異なる種間で形成された野外雑種集団を対象として、回遊時期前後の全ゲノムシークエンスを得た。第三に、淡水から汽水までの環境勾配を再現した閉鎖実験系を作出し、人為的に作成した移動性の異なる種間の雑種を導入し、空間的な移動性の違いを評価する野外実験を着手した。
2: おおむね順調に進展している
行動形質について、再現性の高い実験方法の確立に成功し、表現型、遺伝配列の基盤データを得ることができたため。次年度においてはこれらのデータを解析することで、当初の目標が達成できる可能性があるため。また、遺伝子の絞り込みに際して必要となる遺伝子発現解析用の組織を得ることができたため。
野外雑種集団のゲノムワイド関連解析と、閉鎖実験系内における遺伝型の空間分布を解析することで、原因遺伝子座の同定を完了する。これらの成果を論文にまとめ、投稿する。
本課題の遂行上、2023年度の末まで実施ががずれ込んだ実験が生じた。そのため、やむをえず当該実験分の消耗品費用を翌年度に繰り越す必要が生じてしまったため。2024年度初頭に、実施予定であった実験を速やかに実施する予定である。
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Ecology and Evolution
巻: 13 ページ: 1-9
10.1002/ece3.10077