研究課題/領域番号 |
23K14250
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
升本 宙 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (10883853)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 担子菌類 / ゲノム |
研究実績の概要 |
菌類-藻類間の地衣共生における遺伝的基盤は未だほとんどが未解明の状況にある。特に担子菌門の地衣化菌類はこれまでにゲノム比較の対象とされておらず,子嚢菌門の地衣化菌類と比較したときに,地衣共生に関わる遺伝的背景に共通点が見られるのかどうか明らかになっていない。本研究では,地衣化の起源が異なる5つの担子菌門の地衣化系統を対象として各系統の代表種のゲノム情報を取得し,地衣化菌類全般におけるゲノム比較を行い,地衣共生に関わる共通要素や各系統での独自性を探索することを目的としている。緑藻共生の地衣化担子菌類のゲノム情報はこれまでMulticlavula mucidaのものしか取得されていないため,同じく緑藻共生を営む別系統の担子菌類としてアンズタケ目カノシタ科に所属するBryoclavula phycophilaを対象生物に選定し,PacBio社のロングリードシーケンサーによる新規ゲノム配列の構築,及びIllumina社のショートリードシーケンサーのRNAseqデータに基づく遺伝子予測を行なった。Hifiasmを使用したアセンブルの結果,18コンティグからなるB. phycophilaのドラフトゲノムが得られ,ゲノムサイズは22.4 Mbであった。また,fungiのオルソログセットを用いたBUSCOv5によるゲノムの完全性評価では96%のスコアが得られた。ゲノム中の糖質関連酵素(CAZyme)の保有レパートリーについてdbCAN3を用いて調べたところ,約300のCAZymeが検出され,スクロース分解に関わるCAZymeを保有し,ペクチン分解に関わるCAZymeを欠く点は,既知の多くの地衣化子嚢菌類のゲノムと共通していた。今後は,B. phycophilaと同じアンズタケ目カノシタ科に所属するものの,分子系統の観点から独自に藻類との地衣共生能力を獲得したと推察されるM. mucidaとのゲノム比較を行い,地衣共生に関わる可能性が高い遺伝的要素の探索を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緑藻と地衣共生を営むBryoclavula phycophilaのドラフトゲノムは,BUSCOによるゲノム完全性の評価の結果で高いスコアが得られていることから,今後のゲノム比較の研究において利用可能なゲノム情報を取得することができたと考えている。次年度でのゲノムシーケンスを計画している菌株についても前培養が進んでおり,本年度と同様にロングリード配列とRNAseq配列を取得する準備が整っていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
緑藻共生のBryoclavula phycophilaとMulticlavula mucidaのゲノム比較を行い,両者の共通点や相違点を明らかにすることで,地衣共生に関わる要素の抽出を試みる。また,緑藻との地衣共生を営む別系統の担子菌類として,レピドストロマ目に所属するSulzbacheromyces sinensisを対象生物とした新規ゲノム配列の構築を計画している。加えて,既にゲノム情報が得られているシアノバクテリア共生の地衣化担子菌類や緑藻共生の地衣化担子菌類とのゲノム比較を行い,地衣化担子菌類間での共通点や,緑藻共生とシアノバクテリア共生の系統での違いについて考察を進める予定である。野外採集においては,Bryoclavula phycophilaの追加採集を行い,共生相手の藻類の分類群の特定に関する研究を行うことも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年2月に培地調製に必要な試薬類を購入するための見積もりを業者に依頼した際に,見積もりを得られるのに想定以上の時間(約一週間)が経過してしまい,一部の試薬が学内の予算執行期限までに納品される可能性が不透明となったため購入を見送ったところ,次年度使用額が生じた。この次年度使用額は当該試薬の購入に使用する予定である。
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