研究課題/領域番号 |
23K14276
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
伊藤 幸太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (20816540)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 有限要素解析 / 直立二足歩行 / 足部筋骨格モデル / 仮想改変シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は仮想改変シミュレーションの根幹となる3次元ヒト足部モデルの精緻化と、ヒト二足歩行時の足部有限要素シミュレーションを行った。足部有限要素モデルは四面体要素でメッシュ化された骨、軟骨と軟組織、一次トラス要素の靭帯と足底腱膜、シェル要素の皮膚を組み合わせることで構築した。骨と軟骨は線形弾性材料、軟組織と皮膚は超弾性Ogden材料、靭帯と足底腱膜は張力のみ生成するバネ要素としてモデル化した。また、モーションキャプチャであらかじめ取得したヒト二足歩行中の下腿の3次元運動を強制変位としてモデルに与え、アキレス腱や前脛骨筋腱の張力をタイミングよく与えることで、立脚期中の足部動態をシミュレートした。その結果、二足歩行中の床反力や足底圧分布、3次元関節動態が実計測とシミュレーションでおおよそ一致することを確認した。さらに、仮想改変シミュレーションの実行可能性を検証するために、距骨下関節を拘束したモデルを構築し、関節機能を失った際に床面との力学的相互作用にどのような影響が生じるかをシミュレーションによって確認した。その結果、距骨下関節の外反運動は、床から力を受けた際に足底の接地面積を増大させ、Margin of stabilityやVertical free momentの増大に寄与することが示唆された。この結果はThe 12th Asian-Pacific Conference on Biomechanicsで報告し、若手賞を受賞した。また、二足歩行中のニホンザルの足部動態をハイスピードカメラで計測し、中足部および中足趾節関節の運動を定量化した。その結果、ニホンザルは他の類人猿と比較して二足歩行中の足部変形パターンがヒトと類似していることが明らかとなった。この結果は第77回日本人類学会大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、主に仮想改変シミュレーションの根幹を担う有限要素モデルの精緻化に注力した。モデル内の靭帯や足底腱膜、軟骨の構造を、実際の解剖学的構造を参考に精密に再現したとともに、二足歩行シミュレーションで実計測との比較を行ったことによって、実際の足部動態を十分に再現可能なレベルの有限要素モデルを構築することができた。このように、床反力や足底圧分布だけでなく、骨運動レベルで足部有限要素モデルの精度評価を行った例はなく、本研究課題で構築した精緻なヒト足部モデルを用いることにより、今後行われる仮想改変シミュレーションにおける構造改変の影響を正しく評価することが可能となる。さらに、関節固定モデルの構築と二足歩行シミュレーションを通して、仮想改変シミュレーションの実行可能性を確認することができた。ニホンザルの二足歩行実験に関しても、そもそもの二足歩行時の足部機能を理解するために、特に介入を行っていない純粋な二足歩行時の足部動態の解析を行った。本研究課題の運動実験で計測対象となっているニホンザルは、運動中の足部動態に関してこれまでほとんど報告がなく、初めてその3次元足部動態の特徴を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず構築したヒト足部有限要素モデルの骨形態を改変することによって、ヒト足部特有の骨形態の機能的意義を明らかにする。具体的に構築したヒト足部モデルの踵骨を、ヒトと類人猿の踵骨の中間形態へと変形させ、提案手法を用いて二足歩行シミュレーションを行う。踵骨形態改変前後で骨運動や床面との力学的相互作用がどのように変化するのかを詳細に観察することにより、より頑強で外側に張り出した結節を持つヒトの踵骨が、直立二足歩行の獲得とどのように関連づいているのかを具体的に明らかにする。また、歩行実験に関しては装具を着用したニホンザルの二足歩行実験を行う。具体的に足部に装具を着用させ、足部の母趾対向性が失われることによって全身の振る舞いがどのように変化するのかをモーションキャプチャによって明らかにする。以上のようにシミュレーションと二足歩行実験を相互補完的に用いることによって、足部構造の変容が外界との力学的相互作用や全身のダイナミクスにどのような影響を与えるのかを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はシミュレーションと運動解析に注力したため、霊長類の歩行実験のための実験器具購入や旅費に研究費を使用しなかったため。次年度はシミュレーションと並行して霊長類の歩行実験を行うため、力センサ購入や移動費に利用する予定である。
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