研究実績の概要 |
高歪みかご型炭化水素のユニークな反応性,分子特性の理解を基盤として,その医薬化学的利用価値を拡張するための有機化学的方法論を開拓するために以下に示す2つの具体的方策を検討した. 「キュバン C-H 結合をラジカル的に切断し,様々なラジカルアクセプターと反応させるための一般的手法を開拓する」検討においては,種々検討の結果,タングステン酸光触媒を用いることで,触媒的なラジカル的キュバンC-H結合の切断が進行し,ラジカル受容体とのカップリングが進行することを見出した (Org. Lett. 2024, 26, 658).この結果は,ベンゼン環の生物学的等価体として知られるキュバンを精密に修飾するための新規な手法であり,この反応を用いた種々の医薬品アナログ等の合成における基盤技術となりうる. 「1,3-置換クネアンを,その構造的類似性と分子の剛直性に鑑み,メタ置換ベンゼンの生物学的等価体として提案する」検討においては,キュバン上の置換基が異性化に与える影響を精査することで,高選択的に1,3-置換クネアンを得る手法を見出した.この1,3-置換クネアンを原料とし,メタ置換ベンゼンを有する抗炎症薬であるケトプロフェンのクネアンアナログを合成することで,その生物活性の比較に成功した.さらに得られた生物活性の結果についてインシリコ解析を行うことでその解釈も行った(Chem. Eur. J. 2024, 30, e202303548).本研究の遂行過程で,2つの異なる研究グループより類似の内容の論文が報告され,また得られたアナログは「生物学的に等価」と言えるほどの活性を保持していなかったものの,申請者らはクネアン骨格を有する化合物の生物活性評価に世界で初めて成功した.本成果は,医薬分子設計の新たな指針を示唆するものであり、創薬科学研究の進展への寄与が期待される.
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