糖鎖は生体の恒常性維持において様々な役割を担う翻訳後修飾である。しかし、その糖鎖修飾は多岐にわたり、個々の糖鎖構造が担う生物学的機能は未解明な点が多い。また、腸管に発現するムチンは、硫酸化修飾を含む高度にO-型糖鎖修飾された糖タンパク質である。その糖鎖修飾はムチンの機能発現において必須であることが報告され、腸管恒常性維持に必須のファクターとして認識されている。 申請者らのグループは、生体内における糖鎖の硫酸化修飾が担う機能について研究を続けてきた。その中で、硫酸基転移酵素Chst4がMuc2のO-型糖鎖硫酸化修飾を担う酵素であることを発見した。さらにChst4-/-マウスを樹立し、Muc2のO-型糖鎖硫酸化修飾の機能解明に取り組んできた。そこで本研究では、Chst4-/-マウスを用いて、肥満におけるMuc2糖鎖硫酸化修飾の役割を解析した。 まず我々は、15ヶ月間における長期間の飼育、および高脂肪食の給餌においてChst4-/-マウスは優位に体重が増加することを見出した。つまり、ムチン糖鎖硫酸化の欠損は、肥満を引き起こすことが明らかとなった。また、WTおよびChst4-/-マウスの腸内細菌叢を解析したところ、WTとChst4-/-マウス間で大きく異なることを明らかにした。すなわち、Chst4-/-マウスの腸内細菌叢は多様性が低下し、肥満に特徴的な菌叢を示した。そこで、Chst4-/-マウスの腸内細菌が体重増加に寄与するかを、抗生物質投与により検証した。結果、抗生物質カクテルの投与により肥満が抑制されたことから、Muc2糖鎖硫酸化修飾は、腸内細菌叢を介して肥満を抑制していることが明らかとなった。以上のデータは、Muc2ムチンO-型糖鎖の硫酸化修飾が肥満抑制において重要な役割を果たすことを裏付けている。
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