研究課題/領域番号 |
23K14363
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
坂本 卓弥 金沢医科大学, 総合医学研究所, 助教 (40850623)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 脂肪由来幹細胞 / 虚血再灌流障害 / 肥満細胞 / エクソソーム |
研究実績の概要 |
虚血再灌流障害は、虚血状態が心臓に存在する肥満細胞の脱顆粒を引き起こし、それにより再灌流時に局所的なレニン・アンジオテンシン系が活性化され、致死性不整脈が誘発される現象である。この障害の防御機構として、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)やアデノシンが関与している。これらの物質はGi蛋白質共役型のS1P1受容体とアデノシン受容体を活性化し、肥満細胞の脱顆粒を抑制することで心臓保護効果を示す。一方で、脂肪由来幹細胞(ADSCs)は様々な疾患に対して治療効果を示しており、これらの細胞から放出されるエクソソーム(ADSCs-Exo)が特に注目されている。ADSCs-ExoはS1P/S1P1受容体およびアデノシン受容体のシグナル経路を活性化することにより、虚血再灌流障害における肥満細胞の脱顆粒を抑制する可能性がある。そのため、肥満細胞に対するADSCs-Exoの効果をより詳しく調べるためには、これらのエクソソームをより多く抽出する方法の開発が必要である。今年度は、脂肪由来幹細胞からエクソソームがより効率良く放出される方法についての研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脂肪由来幹細胞(ADSCs)は、通常の接着培養法により培養されると細胞が増殖するが、培養皿の底面積に制限があるため、エクソソームの抽出効率は低くなる。この課題を解決するために、球状の培養機材であるマイクロスフェアを使用して撹拌培養する方法を採用した。この方法では、マイクロスフェアへの接着と撹拌によって、エクソソームの大量抽出が可能かを、Nanosightを使用して粒子径を測定し、細胞数から分泌能を評価した。さらに、FACSを用いてエクソソームマーカー(CD63, CD9, CD81)の発現比較も行った。結果として、マイクロスフェアによる撹拌培養を行ったADSCsは、接着培養したADSCsと比較して、エクソソームの分泌能が有意に増加することが認められた。また、エクソソームマーカー(CD9, CD63)の発現に差異が見られたことから、マイクロスフェア培養が細胞集団の性質に変化をもたらす可能性が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
HMC-1(Human Mast Cell line)や BMMC(Bone Marrow derived Mast cells)にアセトアルデヒドを添加して肥満細胞の脱顆粒を誘導させる。アセトアルデヒド添加と同時に、大量抽出したADSC-Exo を加えることで、アセトアルデヒドによる肥満細胞の脱顆粒に対する ADSCs-Exoの抑制効果を、脱顆粒の指標となる β-HEX(β-Hexosaminidase)やレニンの濃度測定により評価をしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、ADSC由来エクソソームの抽出効率を向上させるために、マイクロスフェアを用いた撹拌培養法を導入した。この新たな培養法はエクソソームの分泌効率を顕著に向上させるだけでなく、比較的低予算で実験を行うことが可能となった。その結果、予定していた使用額に余裕が生じた。これにより、未使用の予算を繰り越し、次年度の研究に活用することが可能となった。次年度では、この効率的な培養法をさらに最適化し、抽出されたエクソソームの肥満細胞脱顆粒抑制効果を詳細に評価するため、in vitroおよびin vivoでの実験を計画している。
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