研究課題
2023年度は本研究の目的である新規抗神経炎症治療の開発のため、複数の植物由来Exosome like nano-particles(以下ELNs)のうち、最も強い抗神経炎症作用の活性が認められた蒼朮由来ELNsの薬理作用について検討を行った。ALR-ELNはマウスミクログリア由来BV2細胞(以下BV2細胞)に取り込まれることを確認した。ALR-ELNは抗炎症活性を持つ可能性のあるmicroRNA (ath-miR166f、ath-miR162a-5p、およびath-miR162b-5p)を含有しており、BV-2細胞をALR-ELNで前処理すると、一酸化窒素、IL-1β、IL-6、TNF-αのレベルが有意に低下し、Lipopolysaccharide(LPS)刺激による炎症促進作用が抑制された。特に、LPS暴露により増加したBV-2細胞中のIl1b、Il6、iNos、ctl2、ctl10のmRNAレベルは、ALR-ELN投与により有意に減少した。またヘムオキシゲナーゼ1、Irf7、ccl12、Irg1のmRNAレベルもALR-ELN処理投与に有意に増加した。さらに、マウス初代ミクログリア細胞をALR-ELNで前処理すると、一酸化窒素レベルが有意に低下することにより、LPS刺激による炎症促進作用が抑制された。この結果は、ALR-ELNがマウスミクログリア細胞に対して抗炎症作用を示すことを示している。本研究成果はFrontiers in Pharmacologyにタイトル"Atractylodes lancea (Thunb.) DC. [Asteraceae] rhizome-derived exosome-like nanoparticles suppress lipopolysaccharide-induced inflammation in murine microglial cells"として報告し、2024 年 4 月 15 日に受理されている。
2: おおむね順調に進展している
想定していた実験結果が順調に得られており、現在のところおおむねに進展している。
ALR-ELNsの抗炎症作用を示す薬理作用について、1.次世代シークエンス解析を用いて蒼朮由来ELNsがミクログリア細胞に対して及ぼす遺伝子調節機能を網羅的に検討する。炎症誘導するためにLPS刺激を行ったBV2細および蒼朮由来ELNsを前処置後にLPS刺激を行ったBV2細胞において、それぞれmRNAを抽出する。各サンプルについて次世代シークエンス解析により遺伝子発現変化を比較する。2.ALR-ELNsに3つの成熟miRNAが含有されることを明らかとしているため、公共データベース(psRNATarget: A Plant Small RNA Target Analysis Server)を用いて、ALR-ELNsに含有される成熟miRNAが、ミクログリア細胞のどの遺伝子をターゲットとし作用するのかを検討する。3.1.2の結果より、共通する遺伝子について検討を行う。具体的には、リアルタイムPCR解析を用いてターゲットとするmRNA発現を確認する。4.最後に、ALR-ELNsに含有される成熟miRNAを人工的に合成し、ミクログリア細胞に導入することで、蒼朮由来ELNsと同様に抗神経炎症作用を示すかを検討する。以上の検討より、ミクログリア細胞に対し、蒼朮由来ELNsが示す抗神経炎症作用機序を明らかとする。また、ALR-ELNsへの効率的なデキサメタゾン封入方法について条件設定の検討を行う。
(理由)本年度の研究に必要な物品費が予定より少額で賄えたため、次年度使用額が生じた。(使用計画)次年度は、動物実験を計画しており、物品費が多く必要と予測されるため、次年度研究費と合わせて使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Frontiers in Pharmacology
巻: 15 ページ: -
10.3389/fphar.2024.1302055