研究課題/領域番号 |
23K14420
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
森尾 花恵 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (70908524)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ペリサイト / 細胞医薬 / がん指向性 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究室で樹立したヒト不死化ペリサイト、またその対照としてヒト皮下脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)を用い、グリオーマに対する指向性について主に解析した。 インサート内に播種した不死化ペリサイトとADSCが、グリブラストーマ細胞株(U-87 MG、U-251 MG)とアストロサイト―マ細胞株(CCF-STTG1)が存在するプレート側(インサート膜上)へ移動する数を、ヒト不死化アストロサイト(本研究室で樹立)をコントロールとして解析した。プレート側の培地にFBSが入った状態で解析をおこなった結果、ヒト不死化アストロサイトに比べ、特にU-87 MGとCCF-STTG1に対してヒト不死化ペリサイトが高い指向性を示す傾向が認められた。一方で、ADSCについてはグリオーマに対して指向性を示す傾向は認められなかった。ADSCについては、インサート内培地をADSC用からペリサイト用の培地に変更したところ、U-87 MGとU-251 MGに対して指向性を示す傾向が認められるようになった。続いて、細胞増殖について加味する余地をなくすため、そしてインサート内の細胞がプレート側に落ちてくるかを検証するため、FBSが入っていない培地を用いてヒト不死化アストロサイトとU-87 MGのコンディションドメディウム (CM)を調製し、それをプレート側に入れた状態で上記と同様の解析をおこなった。その結果、ヒト不死化ペリサイトはヒト不死化アストロサイトのCMと比べてU-87 MGのCMに対して高い指向性を示したが、ADSCについては先程と同様グリオーマに対する指向性を示さなかった。プレート側を観察したところ、ヒト不死化ペリサイトがわずかながらU87-MGのCMが入っているプレート側まで落ちてくることが観察された。 これらの結果より、ヒト不死化ペリサイトはグリオーマに対して指向性を示す可能性が高いと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を遂行するにあたり、まずはヒト不死化ペリサイトおよびADSCに自殺遺伝子を導入したものを樹立し、それらを用いた自殺遺伝子療法のグリオーマに対する抗がん効果を検証する予定であった。これに対し、それに必要なベクターやウイルスの構築、そしてADSCの入手に予想以上に時間を要してしまったことから、研究実績の概要にて報告したヒト不死化ペリサイトおよびADSCのグリオーマに対する指向性について先に解析を進めていた。2024年度に入ってからウイルスの作成が完了し、現在ヒト不死化ペリサイトについては自殺遺伝子HSV-tkの導入に成功(HSV-tkを導入したペリサイトでのみガンシクロビルによる殺細胞効果が認められることまで確認済み)し、ADSCについてはこれから自殺遺伝子発現株を作成する予定である。ペリサイトについてはADSCに優先し、グリオーマ細胞と共培養およびガンシクロビルを曝露した時の抗がん効果について解析をおこなっていく予定である。 また、グリオーマに対するペリサイトやADSCの指向性の背景要因となる遺伝子の網羅的解析についても、当初の予定から遅れて未だ実施することができていない。理由のひとつとして、こちらも研究実績の概要にて報告したように、がん指向性を示すことが多々報告されていることからポジティブコントロールとして購入したADSCが、ヒト不死化アストロサイトとグリオーマに対して同様の指向性を示し、思ったようながん指向性を示さなかったことが挙げられる。新たなADSC、あるいは別組織由来の間葉系幹細胞の購入も検討し、ペリサイトと間葉系幹細胞間での遺伝子発現プロファイルの違いに着目した解析を行うか否かを判断しようと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況の欄でも記載したように、まずはHSV-tkを導入したヒト不死化ペリサイトを用いて、グリオーマ細胞と共培養およびガンシクロビルを曝露した時の抗がん効果についての解析を優先しておこなっていく予定である。この解析をおこなう上では、ヒト不死化ペリサイトがどの程度インサートから離れてプレート側へ移動できるのか、その結果に基づいて、これまでと同様ヒト不死化ペリサイトをインサート内に播種した状態、あるいはプレート側にグリオーマ細胞と共存させた状態のどちらで解析する方が良いか判断する。さらに、ペリサイトの細胞医薬としての有用性を明らかとするために、ペリサイトが血液脳関門を突破する能力があるのか、そして、一部の間葉系幹細胞で懸念されているグリオーマの増殖能の向上への寄与がペリサイトでは認められるのかについても解析をおこなう予定である。 また、進捗状況の欄でも触れたADSCの問題について、ADSCのグリオーマに対する指向性は由来する個体や組織の違いから大きく異なってくる可能性が報告されていることから、現在使用しているADSCが本研究に用いるのに適していない可能性も考えている。新たにADSCを購入することができ、そちらで期待したようなグリオーマ指向性を示すという結果が得られた場合には、現在使用しているADSCと新しく購入したもの、そして現時点でグリオーマに対して指向性を示す可能性が見出された不死化ペリサイトとで遺伝子発現プロファイルを比較し、グリオーマに対する指向性に大きく関与する遺伝子の同定に向けたデータ解析を行いたいと考えている。また、上記の例が実施できない場合には、グリオーマ細胞間で認められているペリサイトの遊走性の違いをグリオーマ細胞間での遺伝子発現プロファイルの違いと照らし合わせ、ペリサイトの遊走に関与する遺伝子の同定につなげることができるよう準備を進めていく予定である。
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