研究課題
コレラ菌や腸管毒素原性などの腸管系病原菌は、食物や水を介してヒトの腸管内に侵入し、巨大な繊維状タンパク質である線毛を菌体表面上に発現させることで、腸管への付着と定着を達成する。定着した病原細菌は、コロニーやバイオフィルムを形成したのちに、様々な毒素を産生することで病原性を発現する。線毛を欠損させた変異株は病原性を発揮できなくなることから、腸管系病原菌の定着過程は、ヒトへの感染を成立させるための最も重要なステップの一つであると考えられている。コレラ菌や腸管毒素原性大腸菌はIV型線毛を腸管定着に利用することが知られている。IV型線毛は、その大部分を構成するメジャーピリンと線毛先端部にのみ存在するマイナーピリンから構築される。我々は、腸管系病原菌の効率的な腸管定着には、線毛だけではなく菌体外に分泌されるタンパク質も重要であることを明らかとした。構造解析・相互作用解析から、分泌タンパク質は線毛の伸長に伴って菌体外に輸送されることが示唆された。ペリプラズムから菌体外への移行には、セクレチンと呼ばれる膜タンパク質を通過する必要があることが分かっている。しかしながら、セクレチンと分泌タンパク質あるいは線毛がどのように関連・相互作用することで分泌を達成しているのか不明であった。本研究ではセクレチンの構造解析によって、その機能に迫ることを目的とした。令和5年度はセクレチンの発現系の構築を試みた。セクレチン遺伝子のC末端側にHisタグ遺伝子を付加することで、Hisタグを付加したセクレチンを発現させた。この融合タンパク質を界面活性剤Triton-X 100を使用し可溶化をおこなった。アフィニティカラムとゲルろ過クロマトグラフィーを利用して精製を試みたが、大半の融合タンパク質は多量体を形成しておらず、単量体になっていた。今後は、多量体として回収可能とするために、条件検討をおこなう。
3: やや遅れている
令和5年度はセクレチンの発現系構築を試みた。セクレチン遺伝子のC末端側にHisタグ遺伝子を付加した融合タンパク質を作成した。可溶化する界面活性剤として、実績の豊富なTriton-X 100を選択し、使用し可溶化をおこなった。Niアフィニティカラムとゲルろ過クロマトグラフィーSephacryl S-400を利用して精製を試みた。しかしながら、大半の融合タンパク質は単量体となっており、本来機能すると思われる多量体を形成していなかった。
セクレチンを多量体として精製するため、界面活性剤の種類や濃度の検討を行う。
発現用コンストラクトの作製などで想定外に時間がかかってしまい、当初予定していた界面活性剤の検討ができなかったため。次年度は、改めて検討予定の界面活性剤を発注し、繰り越した予算を使用する予定である。
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