研究課題/領域番号 |
23K14523
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
楊 佳約 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任助教 (10804825)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 大腸炎 / 抗炎症性物質 |
研究実績の概要 |
宿主の腸内に生息する多様な腸内細菌の生産する代謝物質は人の健康維持と疾病の発症に影響を及ぼしていることが報告されている。腸管表面には粘膜層が存在し、腸管粘膜に局在する腸内細菌は宿主健康により強い影響を与えることが近年の研究で示唆されているが、その知見はまだ限られている。本研究では腸管粘膜層付近で宿主と相互作用する細菌の機能及び宿主と関係性を明らかにすることを目的としている。本研究はこれまでに腸管粘膜に局在する新規の細菌を同定した。当該細菌を定着させたノトバイオートマウスは近年増加している炎症性腸疾患(IBD)のマウスモデルであるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎モデルにおいて大腸炎の症状が緩和されることを明らかにした。したがって、当該細菌は宿主健康に重要な菌であり、IBD治療において着目すべき菌であることが考えられる。 2023年度では当該細菌を定着させたノトバイオートマウスの盲腸内容物のメタボローム解析によって増加が示されたいくつかの抗炎症性物質を無菌マウスに投与し、DSS大腸炎モデルにおける症状の緩和効果を評価した。その結果大腸炎の症状を緩和させる物質を同定することができた。さらに、同物質を生産する酵素も特定することができ、当該細菌の持つ酵素は生産能力が高いことを示唆することができた。よって、当該細菌は生産能力の高い酵素を持ち、抗炎症性物質を多く生産することで大腸炎緩和作用を示していることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は大腸炎緩和作用を示す腸内細菌を同定しているが、2023年度では当該細菌による緩和作用のメカニズム解明を進めた。まず、当該細菌を定着させたノトバイオートマウスの盲腸内容物のメタボローム解析を行い、いくつかの抗炎症性物質が定着マウスで増加していることが見られたため、それらを無菌マウスにそれぞれ投与し、DSS大腸炎モデルにおける症状の緩和効果を評価した。その結果、有意に大腸炎の症状を緩和させる効果を持つ物質を同定することができた。さらに、同物質を生産する酵素を特定することができ、当該細菌の持つ酵素は生産能力が高いことを示唆することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は大腸炎の症状を緩和させる物質を生産する酵素が腸管内でも働き、酵素によって生産される同物質が大腸炎緩和作用を示すことを証明する。当該細菌は遺伝子操作が容易ではないため、酵素遺伝子をゲノムに導入された大腸菌を作成する。作成した大腸菌を定着させたノトバイオートマウスを用いて、DSS大腸炎実験を行い、酵素遺伝子を持たないコントロール群と大腸炎緩和作用の違いを比較する。また、腸管内における同物質の生産をメタボローム解析で調べる予定である。
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