研究課題/領域番号 |
23K14572
|
研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
山崎 淳太郎 藤田医科大学, 腫瘍医学研究センター, 博士研究員 (10963580)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 胃がん / 酸化ストレス / HER2 |
研究実績の概要 |
胃がんの15%に見られるHER2遺伝子の増幅は有望な治療標的の一つと考えられており、抗HER2抗体であるトラスツズマブは従来の抗がん剤と併用され、HER2陽性胃がん患者の予後を大きく改善している。しかしながら、乳がん同様に抗HER2療法に対しては耐性細胞の出現が報告されており、その克服が課題となっている。本研究では、申請者が開発した新規HER2陽性胃がんマウスモデルを用いてHER2発現によるがん幹細胞マーカ ーCD44vの発現変化、さらにはCD44v-xCT系への影響を明らかにし、トラスツズマブを併用する抗がん剤治療に対する耐性化メカニズムならびにそれを克服する新規治療法の開発を目指す。我々は自然発生胃がんマウスモデル(GANマウス)の腫瘍細胞から腫瘍オルガノイドを作成し、胃がんにおけるCD44の機能解析や、さらなる遺 伝子改変を行った高悪性胃がんモデルの樹立(Yamasaki et al., Cancer Sci, 2022)を行なってきた。腫瘍オルガノイドはin vitroでの遺伝子操作や薬剤感受性評価が容易であり、これを移植したマウスは自然発生型マウスモデルに比べて個体間でのばらつきが低減されるため、がん治療モデルとしても使用できる。そこで本研究はCD44v陽性胃がんに対してHER2遺伝子を強制発現させることでCD44vの機能がどのように変化する か、さらにはHER2標的治療によって起きるCD44vやxCTを介した抗酸化機構への影響やトラスツズマブ耐性化におけるCD44v-xCT系の関与を明らかにすることを目的とする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然発生胃がんマウスモデル(GANマウス)の腫瘍オルガノイドのTrp53をCRISPR/Cas9によってノックアウトしたGAN-p53KOにHER2を過剰発現させることでHER2陽性胃がんモデル(GAN-HP)を樹立した。既に作成しているGAN-p53KOおよび変異型KRASを導入したGAN-KPと共に免疫不全マウスに移植し、膜上CD44vとHER2の局在の違いを明らかにするために免疫組織化学染色を行なった。GAN-p53KOおよびGAN-KPではHER2の発現は見られなかったがGAN-HPにおいて膜上にHER2の発現を確認した。興味深いことにCD44vの膜上における局在は三種類のオルガノイド由来の腫瘍で異なることが分かった。GAN-p53KOは管腔内部側に発現していたのに対し、GAN-KPでは細胞の全周に発現していた。さらにGAN-HPでは細胞間および基底膜側に発現していることが明らかになった。 これらの腫瘍オルガノイドを免疫が正常なC57BL/6Jマウスの皮下に移植したところGAN-HPは腫瘍を形成しなかった。将来的にヒト化HER2抗体による治療を行う予定だったため、GAN-HPにはヒトの(ERBB2)HER2を過剰発現させていたが、これが免疫応答を惹起して排除されてしまった可能性が考えられた。今後微小環境との相互作用を解明するために、マウスErbb2を過剰発現させたオルガノイドを樹立することを検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
胃がんにおいてCD44vはシスチン・グルタミン酸交換輸送体xCTを安定化して細胞内のシステインおよびグルタチオンを増加させることで抗酸化能を高めていることが知られているが、HER2の強制発現によるCD44vの局在の違いによってxCTの機能に変化があるかを検討する。CM-H2DCFDA(t hermo fisher)染色によるROSの検出、GSH-Glo(Promega)によるグルタチオンの定量、Cystine Uptake Assay Kit(Dojindo)を用いたシスチンの 取り込みを測定することで酸化ストレスに対する抵抗性を評価する。また抗HER2抗体であるトラスツズマブを添加しHER2を阻害した際にxCTの活性に影響を与えるか検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は所属機関の移動に伴い、研究環境の整備や必要書類の審査を待つ期間があり、予定していた実験の一部が実施できなかった。現在では動物実験計画書や遺伝子組み換え申請書等の書類も承認を得ており、従来通り実験を行なっている。次年度は当初の計画通りCM-H2DCFDA(t hermo fisher)染色によるROSの検出、GSH-Glo(Promega)によるグルタチオンの定量、Cystine Uptake Assay Kit(Dojindo)を用いたシスチンの 取り込みを測定することで酸化ストレスに対する抵抗性を評価を行うとともに、マウスErbb2を過剰発現するレンチウイルスベクターを構築して腫瘍オルガノイドに導入し、免疫が正常なC57BL/6Jマウスに移植するマウスモデルの作成を計画している。
|