研究課題/領域番号 |
23K14586
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | トリプルネガティブ乳がん / 細胞外小胞 / 間葉系幹細胞 / 腫瘍内微小環境 / がんの治療 |
研究実績の概要 |
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する効果的な治療は確立されておらず、そのためTNBCは予後が悪く、死亡率が高い。ほとんどの乳がん治療は癌細胞を直接標的としているが、マーカーの欠如と高い再発率により、TNBCの治療への応用は限られている。我々はこれまでの研究で、臍帯のウォートンゼリー部分から単離された間葉系幹細胞に由来する細胞外小胞(WJ-EV)の能力を明らかにした。そこで本研究では、1)WJ-EVにより取り込まれた乳がん細胞(BCC)が腫瘍内微小環境に関与する数種類の細胞に及ぼす影響を明らかにすること、2)TNBC治療の新たな戦略として、高い抗がん能力を持つWJ-EVを開発することを目的とした。WJ-EVは、臍帯のウォートンゼリー部分に由来するMSCから分離されたものである。癌関連線維芽細胞および内皮細胞などの腫瘍内微小環境に関与する様々な細胞に対するBCCを取り込んだWJ-EVの影響を検査した。結果、WJ-EVを取り込んだBCC(wBCC)が、TNBCの生体内での発生や転移能力、内皮細胞の血管新生能力、癌関連線維芽細胞の生成を減少させることを示した。注目すべきことに、BCCに対するWJ-EVの阻害効果は、HIF1αの発現を下方制御するWJ-EVからBCCへのmiRNA-125bの移動に関係している。さらに、WJ-MSC における miRNA-125b の過剰発現により、高レベルの miRNA-125b を含む改変 WJ-EVを生成した。これらの改変されたWJ-EVをBCCが取り込むことにより、BCCの増殖および幹細胞性に対する、より強力な阻害効果がもたらされた。以上のことから我々の研究は、BCCを阻害する高い抗がん能力を持つ改変WJ-EVをmiRNA-125bの過剰発現により生成する可能性があることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. まずBCCとWJ-EVを取り込んだBCC(wBCC)をマウスに注射し、BCCによって形成された腫瘍に比べて、wBCCによって形成された腫瘍がより小さかった。また、BCCを注射したマウスの肺では多くの腫瘍病巣が観察されたのに対して、wBCCを注射したマウスの肺では腫瘍病巣の数が少なかった。加えて、wBCCによって形成された腫瘍は、BCCによって形成された腫瘍と比べて、CD31(+)細胞の数およびがん関連線維芽細胞(CAF)マーカーの発現が少なかった。 2. 次に、miRNAシーケンシングを実行して、KEGG分析により、wBCCにはmRNAを標的とするmiRNAがHIF1αシグナル伝達経路に関与していることが示された。加えて、miRNA標的予測および機能アノテーションデータベースmiRDBでスクリーニングし、miR-125bのみがHIF1α阻害を直接制御することを示した。さらに、WJ-EVのmiRNA配列決定を行った。結果、miR-125bがWJ-EVに含まれていることを示した。加えて、miR-125b阻害剤で処理したwBCCではHIF1αの発現が誘導され、miR-125bがwBCCにおけるHIF1α発現の直接阻害剤であることが示唆された。 3. 次に、WJ-MSCでmiR-125bの過剰発現を実行し、これらの細胞から改変されたEV(mi125-EV)を収集した。mi125-EVが元のWJ-EVよりも多量のmiRNA-125を確認できた。次にmi125-EVをBCCに取り込み、レシピエントBCCの腫瘍形成能および転移能に対する影響を調べた。結果、mi125-EVを取り込んだBCCは、元のBCCを取り込んだBCCよりも少ない増殖および少ない球形成を示すことを示した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 最近の研究では、がん細胞の挙動を変化させて本来の恒常性を遮断し、腫瘍の発生を調節することが、将来のがん治療法として有望であるとされている。血管新生に対する阻害効果に加えて、wBCCは腫瘍内微小環境におけるCAF生成を阻害した。CAFは腫瘍内微小環境における最大の不均一細胞集団の1つであり、腫瘍の進行と転移をサポートする多様な機能を持っている。したがって、BCCと比較して、wBCCは、乳がん腫瘍の発生を軽減する対照的な細胞連動や細胞間コミュニケーションを示した。今後の予定はwBCCがどのように腫瘍内微小環境における腫瘍関連マクロ ファージ(TAM)の形質転換に対して影響を与えるのかについて解析する。 2. 元のWJ-MSCの遺伝子改変が、WJ-EVにおけるmiR-125bなどの標的miRNAのレベルの誘導につながり、これらの改変されたmi125-EVはBCCの増殖および球形成を阻害する能力を強化することを示した。次に、mi125-EVを取り込んだBCCをマウスに注射し、腫瘍の増殖を元のBCCおよびWJ-EVを取り込んだBCCと比較する予定である。さらに、mi125-EVをマウス腫瘍モデルの異種移植腫瘍に注入 し、mi125-EVが腫瘍 内微小環境に対して影響を解析する予定である。 3. mi125-EVを腫瘍抑制に適用するには、これらのEVが腫瘍部位を特異的に標的にできるかどうかを調べる必要がある。したがって、次のステップとして、乳房腫瘍内のBCCを直接標的にすることができる特定の因子でmi125-EVの膜を改変することが求められる。
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