研究課題/領域番号 |
23K14588
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
佐藤 茉美 新潟大学, 日本酒学センター, 特任助教 (40893235)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フェロトーシス / xCT / グルタチオン |
研究実績の概要 |
がんの転移は、がん関連死の大部分を占める。がん細胞は増殖能や各種療法への耐性維持のため、正常細胞とは異なる代謝依存性を示すことが知られている。この観点において、Ferroptosis(フェロトーシス)はアミノ酸や鉄、脂質など様々な栄養素の代謝経路により制御される細胞死である。シスチン/グルタミン酸輸送体(xCT)は基質アミノ酸の輸送を通じて細胞の抗酸化能を維持し、フェロトーシスから細胞を保護する。本研究は、がん細胞の転移に関与しうる現象として研究されてきた上皮間葉転換(EMT)において生じる代謝変化に介入することにより、がん細胞のフェロトーシス脆弱性が高まるか検証することを目的とする。 本年度は、ヒト肺がん由来細胞のA549を用い、TGF-β1処理によりEMTを誘導した。このEMTモデル細胞は、無処理の細胞と比べxCTのタンパク質発現量が大きく低下した。これを反映して、シスチン輸送活性とグルタチオンは顕著に減少した。しかしながら、フェロトーシスの引き金となる脂質過酸化反応のレベルや、フェロトーシス誘導試薬への感受性にEMT誘導の有無による差は認められなかった。一方でEMTを誘導したA549において、フェロトーシスへの感受性を高める因子のひとつであるACSL4のタンパク質発現量が低下していた。ACSL4は細胞膜リン脂質において易酸化性の多価不飽和脂肪酸の含有量を制御している酵素である。したがって、EMTを誘導したA549細胞では、xCTの発現減少と共にACSL4の発現減少が生じることで、脂質過酸化レベルの上昇を抑制していることが考えられた。 また、EMT誘導がん細胞にxCT遺伝子発現ベクターを導入することで、EMTによって抑制されるxCTを強制発現させると、細胞傷害の指標としてのLDHは上昇傾向がみられたが、細胞死は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で予定していた実験の進行が遅れている。特に、xCTの担うセレノシステイン代謝に関する検討が未実施である。
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今後の研究の推進方策 |
xCTはセレノシスチンの輸送を通じて、抗フェロトーシス因子の一つであるグルタチオンオキシダーゼ4(GPX4)をはじめとするセレノプロテインの活性にも関わっていることが予想される。EMT誘導によりxCTの発現が減少することで、セレノシステイン代謝がどのような影響を受けるかを、細胞内のセレン濃度測定や各セレノプロテインのタンパク質発現解析により明らかにする。
xCTがEMTにおいて発現抑制を受ける意義の解明を行う。これを達成するため、EMT誘導細胞にxCTを強制発現させ、遊走能や浸潤能など、がん細胞の転移に関連した現象についてin vitroでのアッセイにより評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた実験のうち、未実施分の実験に係る費用に余りが生じたため。
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