研究課題
運動不足と高脂肪食(HFD)はそれぞれ骨格筋量の減少に影響を及ぼすとされており、これらの状態はDNAメチル化の調節にも関与していることが知られている。しかしながら、運動不足やHFDが骨格筋量の減少にどのようにDNAメチル化を介して作用するのかは、明らかにされていない。この問題を解明するため、マウスを用いて運動不足のモデルを作成し、正常脂肪食または高脂肪食を2週間与えた後、後肢をギプスで固定する実験(HCI)を1週間実施し、ヒラメ筋と足底筋の筋肉量を測定した。また、DNAメチル化の状態は、Infinium Mouseメチル化ビーズチップを用いて詳細に評価・分析された。実験の結果、2週間の高脂肪食単独では筋肉量に顕著な変化は観察されなかったが、HCI単独で行った場合には体重に対する筋肉量が減少し、特に高脂肪食を経た後のHCIではさらに筋肉量の減少が顕著であった。このことから、運動不足と高脂肪食の相乗効果が筋肉量の減少を促進することが示唆された。さらに、主成分分析とクラスター解析を通じて、これらの介入がヒラメ筋のプロモーター領域のDNAメチル化に一貫性を持って影響を与えていることが確認されたが、足底筋ではそのような一貫性は見られなかった。また、エピジェノムワイド関連解析と遺伝子オントロジー解析により、ヒラメ筋においてはHFD後のHCIが行われた際にのみ、筋肥大に関与する遺伝子のプロモーターで高いメチル化が観察された。これらの結果は、HFDが運動不足によるヒラメ筋の減少をどのように促進するか、そしてその過程でDNAメチル化がどのような役割を果たしているのかを示唆しており、筋肉減少の分子メカニズムの解明に寄与するものである。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究成果から、高脂肪食と運動不足が骨格筋量の減少に及ぼす影響と、このプロセスにおけるエピジェネティックな変化の関連性を示唆できた。これは、当初の研究計画に従って進行していることを確認するものである。
今後の研究では、DNAメチル化データと遺伝子発現プロファイルを統合分析することで、骨格筋量減少に対する個々の遺伝的変化がどのように影響を与えているかをより詳細に解明する。特に、遺伝子のプロモーター領域やエンハンサー領域でのメチル化パターンを詳細に調べることにより、重要なDNAメチル化部位を同定し、その機能的意義を探求する。そして、これらの分析を通じて、筋肉量減少に対するエピジェネティックな調節メカニズムを明らかにする。
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