研究課題/領域番号 |
23K14929
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
北畠 和己 東京理科大学, 薬学部薬学科, 助教 (40910732)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 浸透圧 / 放射線細胞応答 / 機械刺激感受性チャネル / Piezo1チャネル / DNA修復反応 / 肺がん細胞 / 悪性黒色腫 |
研究実績の概要 |
本研究は放射線がん治療の向上を目指し、がんにおける放射線抵抗性の獲得機構について浸透圧応答に着目して検討を行った。 今年度は浸透圧変化ががん細胞の放射線感受性に与える影響を検討した。肺がん細胞を用い、低張液で培養することで低浸透圧を、高張液で培養することで高浸透圧を、それぞれ浸透圧変化を与えてその影響を検討した。低浸透圧では放射線照射後のDNA修復反応が促進、放射線誘導の細胞死の抑制が引き起こされ、放射線抵抗性の獲得が示された。一方で高浸透圧ではDNA修復反応の抑制と放射線誘導の細胞死の増強が引き起こされ、放射線抵抗性を喪失が示された。興味深いことに、これらの放射線抵抗性の獲得と喪失は正常細胞においては示されなかった。浸透圧変化は放射線抵抗性の獲得と喪失の両方に誘導すること、またこれはがん細胞においてのみ観察されることが見出された。 低浸透圧による放射線抵抗性の獲得のメカニズムを検討した。細胞内カルシウムイオンキレート剤、機械刺激感受性チャネル(特にPiezo1チャネル)の阻害薬によって、低浸透圧によるDNA修復反応の促進がキャンセルされた。これにより低浸透圧による放射線抵抗性の獲得に機械刺激感受性チャネルを介した細胞内カルシウムイオン濃度の増加が関与している可能性が示された。これらの実験結果は日本薬学会にて発表を行った。 これらの結果より腫瘍内の浸透圧変化ががん細胞の放射線抵抗性に影響すること、これらに機械刺激感受性チャネルが関与すること示唆された。またこれはがん細胞のみに示されたことから、機械刺激感受性チャネルを標的とした薬剤で浸透圧による放射線抵抗性を調節することで、がん細胞においてのみ放射線増感効果を誘導できる可能性がある。これらは現在の放射線治療の課題を解決できるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初に計画していた実験は順調に行えており、充分な結果を得ている。一方でいくつか当初の予測とは異なる結果を得た。 当初の計画では浸透圧変化は放射線抵抗性の獲得を誘導すると予測していた。低浸透圧は放射線抵抗性の獲得を誘導することが示されたが、高浸透圧では放射線抵抗性の喪失が誘導された。低浸透圧と高浸透圧で放射線感受性に対して異なる影響を示したことは当初の予測とは異なっていた。低浸透圧と高浸透圧では異なる分子もしくは異なる細胞応答が引き起こされている可能性がある。 正常細胞においては浸透圧変化によって放射線感受性に影響は示されなかったが、これは当初の予測とは異なっていた。正常細胞とがん細胞では浸透圧変化に対して異なる分子もしくは異なる細胞応答が引き起こされている可能性がある。 これらの予測とは異なる結果は、浸透圧変化に対する細胞応答という点で生理学的に重要な知見を与える可能性がある。またこれらは知見を用いて放射線がん治療の向上に役立てられる可能性がある。 これらより本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに浸透圧変化が肺がん細胞の放射線感受性に大きな影響を与えることが示された。今後は、悪性黒色腫や神経膠芽腫などの放射線抵抗性のがん細胞種を用いて、これらの放射線感受性に対する浸透圧変化の影響を検討する。これにより浸透圧変化による放射線感受性への影響ががん細胞種によって異なるかどうかを明らかにする。 肺がん細胞において、低浸透圧は放射線抵抗性の獲得を誘導し、高浸透圧は放射線抵抗性の喪失を誘導したため、低浸透圧によって活性化する因子、高浸透圧によって活性化する因子を阻害薬などを用いて検討する。特に機械刺激感受性チャネルに着目し、これらの関与を明らかにしていく。これにより、肺がん細胞がどのようにして浸透圧変化に対して細胞応答しているのかを示す。 また浸透圧変化に関与する分子の阻害薬を用いて、がん細胞の放射線感受性を制御して、がん細胞をより効率的に殺がんする新たな放射線治療をin vivo実験などを行い、示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後はin vivo実験などが増えていくためマウスの購入や試薬の使用量が増加することが予測される。そのため実験にかかる支出が増加していくため、次年度に実験費を回すため、次年度使用額が生じた。これらはマウスや試薬の購入費に用いる予定である。
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