まず、これまでに作製していたPNPLA8ノックアウトヒトiPS細胞と、PNPLA8変異を有する患者から樹立したiPS細胞を用いて脳オルガノイドを作製し、表現型の解析を行った。これまでにPNPLA8機能喪失により外側放射状グリア細胞が有意に減少することが分かっていたが、それに加えてPNPLA8機能喪失下では放射状グリアが細胞周期を離脱した細胞が有意に増加することが分かった。次に、脳オルガノイドの放射状グリアをターゲットに空間トランスクリプトーム解析を行った。その結果、PNPLA8機能喪失では放射状グリアでは神経細胞への分化が亢進し、外側放射状グリア細胞の産生が低下する遺伝子発現パターンとなっていることが分かり、これまでの表現型解析と合致する結果であった。次に、放射状グリアのリン脂質がどのように変化しているかを調べるため、iPS細胞から二次元の神経幹細胞を誘導し、これを用いてリピドミクス解析を行った。その結果、PNPLA8ノックアウト神経幹細胞ではリゾホスファチジン酸(LPA)を含む数種類のリン脂質が減少していることが分かった。以上の結果から、ホスホリパーゼであるPNPLA8の欠損によりリン脂質の構成変化が生じ、その結果放射状グリアの運命決定が変化し、外側放射状グリア細胞の産生が減少するとともに神経細胞への分化が亢進することが分かった。強い分裂能を持つ外側放射状グリア細胞の減少が小頭症の原因になることが、これらの実験により証明された。
|