研究課題/領域番号 |
23K14960
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岡橋 彩 日本大学, 医学部, 助教 (70866813)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 早産児 / 神経発達症 / 視覚認知 / 発達検査 |
研究実績の概要 |
日本は周産期死亡率が世界一低く、在胎28週未満で出生する超早産児の生存率が向上している。早産児の後障害として、神経発達症が注目されている。これらの児は、学童期以降に心理社会的問題を抱えることから、乳児期での「早期発見」「早期療育」が求められる。 今回、自施設での早産児外来において、神経学的評価、心理学的評価、視覚認知検査の3つを組み合わせて実施し、早産児の自閉スペクトラム症(ASD)の早期診断を目指した前向き研究を行った。在胎32週までの早産児を対象とし、正期産の定型発達児と比較した。修正9-11か月健診時に、微細運動と粗大運動の発達、社会性の評価をビデオ撮影後、半定量的に数値化した。適応行動の評価としてVineland-IIを、視覚認知機能の評価として視線計測装置Gazefinder(JVCケンウッド社)を用いた。早産児10例、定型発達児10例のデータを収集した。早産児は、アイコンタクトは良好であったが、ほぼ全例で表情に乏しく、下肢の筋緊張の亢進や足関節の硬さを認めた。Vineland-IIで社会性が有意に低値であり(定型児95.8 ±9.8vs 早産児84.1±9.26, p<0.05)、ASD傾向を認めた。また、有意差はなかったものの、早産児は社会性のみならず、運動スキルも低い傾向を示した(定型児95.7 ±7.0 vs 早産児86.8±12.1, p=0.061)。視覚認知機能の評価では、早産児群では顔への注視率が低い傾向を認めた。 早産児の修正9-11か月の発達評価にて、一般的にASDの早期兆候として認められるアイコンタクトは比較的良好であった一方で、表情の乏しさ、社会性の乏しさ、運動発達の遅れなどのASD傾向を認め、顔という社会的情報への注意の欠如を認めた。縦断的な解析により、これらの早産児に特有なASD兆候を特異的に捉えられる指標の検討を継続している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究期間中の初年度として、まず、The 15th European Paediatric Neurology Society Congress(Prague, Czech Republic)にて「A prospective study for early detection of neurodevelopmental disorders in preterm infants in the follow-up outpatient clinic. 」と題して、横断的研究結果を学会発表した。早産児はASDの早期兆候として認められるアイコンタクトは比較的良好であったため、診察のみでは神経発達症の早期診断は難しいことを示した。一方で、発達検査であるVineland-IIで社会性が有意に低値であり、視線解析では顔という社会的情報への注意の欠如など、正期産児でASD傾向とされる徴候を認めた。 当院で行った早産児の視線解析のもうひとつの研究では、早産児では注視率の安定は正期産児より受胎後週数で比較しても遅れることを報告しており、組み合わせると、視線解析装置を早産児の発達評価として、臨床ベースで用いることの報告にエビデンスを蓄積することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
早産児のASDを早期発見することが神経発達症で困難さを抱える早産児の予後を改善すると考えたが、視線解析を含む発達評価で、修正9-11か月では早産児の多くにASD徴候を認めることがわかり、正期産児と同じ診断基準を用いてASDの診断を行うことは難しいと思われた。 一方で、早産児に見られたASDの特徴は未熟な脳のまま出生することによる視覚や認知の脳内ネットワーク障害が原因であると仮定すると、早産児には一律に認知機能の向上を促す、発達促進プログラムを指導し、実践していくことが神経発達症で困難さを抱える早産児の予後を改善する可能性が考えられた。 2年目は早期診断に向けては、縦断的観察を続ける必要があると思われた。この集団の中でASDの診断となる児が実際にいるのか、いれば、その特徴と、早産児に一律に認められた「視線が合うが表情が乏しい」こととの関係を考察していく必要があると考えられる。また、視線解析によって早産児に視覚認知の低さを一律に認めたことから、早産児の発達促進のプログラムには視覚認知に着目した介入が、発達改善の一助になる可能性が示唆された。 これらの児の視線解析の縦断的な解析を進めるとともに、論文化に向けて活動する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関して学会発表は行ったが、論文化に至っておらず、理由としては神経発達症は2歳以降に発達心理検査で診断が確定するため、1年では成果に至らないことが挙げられる。研究実施期間は2023年-2024年全体としており、今後も引き続き、前向きに顔認識を軸に用いた神経心理学的解析①NICU退院後の早産児フォローアップ外来通院中の超早産児群、②正期産のASD群、③正期産の定型発達群の3群を対象に、選好注視法を用いた視覚認知機能の比較解析を行う。修正3-7か月、9-11か月、1歳6-8か月および、2歳、6歳時(早産児は修正月齢、修正年年齢)の5時点で評価する。発達心理検査(Vineland-II適応行動尺度など)を行うため、検査する臨床心理士の雇用と、検査バッテリーの購入資金が必要である。 視線解析装置による選好注視法も同様に、定型発達児が注視するであろう「ターゲット領域」とASD児が注視するであろう「代替ターゲット領域」「その他の領域」それぞれの注視率%を計測し、解析する費用も必要となる。 神経診察所見及びASD診断評価と顔認知課題による視覚認知解析の結果との関連性を検証し、超早産児の神経発達症の早期診断を可能にするパラメーターを抽出するには、縦断的な追跡研究が必要であり、引き続き、対象患者からの視線解析の情報収集を行う。
|