心筋緻密化障害を呈した患者から検出されたヒトサルコメア遺伝子(MYH7)の病的バリアントを導入したマウスの作成を行い、その表現型の評価として、病理組織学的検討、心電学的検討、心臓超音波解析をし、心筋緻密化障害の有無を確認した。 病理組織では左室側壁後壁における心内膜の肉柱組織を認め、心筋緻密化障害の表現型との関連が示唆された。また心、臓超音波検査では野生株に対して、心収縮能の低下、拡張能障害を認めており、サルコメア遺伝子変異による心機能の変化が確認された。 さらに、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現を評価し、大きく変動していた遺伝子についてはR-PCRで発現量の変化を確認した。NppaやPostn、CD38といった心筋ストレスとその代償に関連する遺伝子発現の増加が認められた。 また遺伝子変異導入マウスの心筋組織の代謝変化を評価するためにメタボローム解析を行った。代謝物を比較したところ、心筋の主要なエネルギー産生回路である、解糖系と脂肪酸代謝は抑制されていた。また、クエン酸回路を介したエネルギー産生に関しても低下し、酸化ストレスの指標である、8-OhdGやGSSG/GSHはともに低下し、電子伝達系を活性酸素種の産生は抑制されていることが示唆された。糖代謝に加え、解糖系から分岐するペントースリン酸回路の代謝物も低下するなど、代謝変化は拡張型心筋症と共通する部分が認められ、心機能変化や病理組織学的評価と矛盾しないデータが得られた。今後、実際の細胞内のATP産生と消費、ミトコンドリア機能異常の有無、酸化ストレスの評価を行っていく予定である。
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