研究課題/領域番号 |
23K15019
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
佐々木 槙子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (00961541)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 光線力学療法 / 5-ALA / 光感受性物質 / 悪性腫瘍 / がん免疫 |
研究実績の概要 |
光線力学療法 (Photodynamic Therapy, PDT)は光感受性物質をがん細胞に集積させ,特定波長の光線を照射し活性酸素種をがん細胞内で発生させることでがん細胞を選択的に死滅させる低侵襲な治療法である.本邦ではTalaporfin sodium(TS)を用いたPDT (TS-PDT) が食道癌に保険適用となっている.また近年,放射線治療では抗腫瘍免疫が活性化し非照射部のがん組織にも抗腫瘍作用が起こることがわかっており,abscopal効果と呼ばれる.PDTにおいても,直接的な殺細胞効果のみではなく,免疫細胞の誘導による免疫原性細胞死が起こることが報告されているがその詳細は未解明である.PDTによる抗腫瘍免疫をさらに高める方法を見出せば,PDTは局所療法にとどまらずがん免疫を活性化する全身治療として更なる飛躍が見込まれる.我々は,5アミノレブリン酸(5-ALA : 5-aminolevulinic acid)のミトコンドリア機能回復能に着目し,がん細胞を攻撃する免疫細胞の一つである細胞障害性T細胞のミトコンドリア機能を回復することでPDTによる免疫原性細胞死のさらなる誘導が可能ではないかと着想した.5-ALAは天然由来のアミノ酸で,本邦では脳腫瘍・膀胱癌に対する光線力学診断のための薬剤として保険承認され,広く使用実績がある.5-ALAに関して既に申請者らは基礎研究を行い報告しており,試薬の取り扱いや未発表データも含めて研究実績がある(Sasaki et al PLoS One 2021). 今回我々は本研究ではPDTと5-ALAの併用療法の基礎的なメカニズムを腫瘍内微小環境の変化を中心に解明し,従来よりも更なる抗腫瘍免疫の活性化をもたらす新規PDTの確立を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)TS-PDTおよび5-ALA併用による殺細胞効果の検討;ヒト大腸癌細胞株HCT116・ヒト食道癌細胞株KYSE30・マウス大腸癌細胞株MC38に濃度別のTSを投与し,2時間共培養を行う.その後至適波長での LEDライトを照射してPDTを施行しIC50後を測定し結果を得た. 2)抗腫瘍効果の検討;正常免疫マウス(C57BL/6)の側背部皮下にマウスの大腸癌細胞株(MC38)を移植し,Syngeneic皮下腫瘍移植モデルを作成する.非治療群・TS-PDT単独治療群・5-ALA単独投与群・TS-PDTおよび5-ALA併用治療群を設定し,至適条件について検討をおこなった.各群で腫瘍体積の経時的変化を測定し良好な結果を得た. 3)腫瘍内の疲弊リンパ球の評価;当初令和6年度に施行予定であったが,上記計画が良好に進展したため,当初令和6年度より開始予定であったが,2023/1より疲弊リンパ球の評価に着手している.
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今後の研究の推進方策 |
おおむね計画通り(一部計画を前倒しして進展)しており,今後以下を予定する. 1)腫瘍内の疲弊リンパ球の評価 腫瘍微小環境におけるT細胞を評価するために,Syngeneic皮下移植腫瘍モデルにTS-PDTと5-ALAの併用療法を行った後の腫瘍につき検討を行う.非治療群・PDT単独治療群・5-ALA単独投与群・PDTおよび5-ALA併用治療群の各マウスを安楽死させ,マウスから摘出した腫瘍を細かく切断した後,tumor dissociation kit (Miltenyi Biotec Inc, Auburn CA社)を用いて細胞浮遊液を得る.これらの細胞の表面マーカー(CD45,CD11b,CD8,PD-1,PD-L1,4-1BB,Tim3,CTLA4,CD44,CD62L等)を蛍光標識抗体で染色した後,免疫表現型を FACSCantⅡ(BD社)により解析する.また同様に取り出した腫瘍を免疫染色して検討する. 2)T細胞におけるミトコンドリア機能の評価 Syngeneic皮下移植腫瘍モデルの非治療群・PDT単独治療群・5-ALA単独投与群・PDTおよび5-ALA併用治療群の脾臓より脾臓細胞を分離し,ミトコンドリア機能の指標である酸素消費速度をMitoXpress Xtra Oxygen Consumption Assay(Agilient社)を用いて測定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験の際の至適条件である薬剤濃度決定をするまでに,相当数の5-ALAが必要かと考えたが,条件設定が当初の計画より少ない試行回数にて算出することができた.そのため、5-ALA購入のために必要な想定予算の使用が本年度は少なくなった.しかしながら,2023年度内に購入をし2024年より使用予定であった薬剤の購入が遅れていること,学会にて研究成果を発表する予定であったが、学会発表にいたらなかった。各種試薬の価格高騰(円安などの影響)などもあり,その他の実験はおおむね計画通りでありながらも,翌年に繰り越し学会発表や薬品購入を予定する.
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