研究実績の概要 |
臨床情報データベースを用いた探索解析として、2023年度では約20年間の間に当院にて非進行肝細胞癌(BCLC 0/A/B stage)に対して診断・治療を行った566例を対象に背景肝疾患の推移とその予後に関する検討を行った。肝癌薬物療法療法の進歩に基づいた分類[2002年2月~2009年4月を期間I(肝癌薬物療法がない時代), 2009年5月以降を期間II (肝癌薬物療法使用可能な時代)にわけて解析を行ったところ、期間Ⅱの症例は期間Ⅰに比べ高齢、低ALBI score、低AFP、抗ウイルス薬導入率が高い集団であった。予後についてはAFP,ALBI scoreを予後因子としてもつBCLC B stageでは予後改善はみられなかったものの、年齢、ALBI scoreを予後因子としてもつBCLC stage 0/A stageではFine-Gray競合リスクモデルによる解析にて期間Ⅱにおける肝関連死の有意な減少(HR: 0.656; 95%CI: 0.442-0.972, P = 0.036)が認められた(Kaneko et al. PLOS ONE. 2024)。一方で、進行肝細胞癌についても切除不能肝細胞癌に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブを導入したコホート213例では多変量解析による予後因子解析ではCRP1mg/dL以上, AFP100ng/ml以上, mALBI gradeが有意な独立した因子であり(Kaneko et al. Hep Res. 2024)、腫瘍の悪性度のみならず背景肝、基礎炎症所見が重要であることが分かった。そのため予後改善のためには肝癌薬物療法のみならず、その背景肝疾患の病態理解をした上で、患者個人のリスクを評価した精緻な肝癌サーベイランスによる早期発見早期治療、肝予備能を改善または維持する診療戦略が必要である事が確認された。基礎的検討においても、肝癌ゲノム情報に基づき、KMT2Bの特定exon領域のHBV integrationに注目した。ゲノム編集によって再現したiPS細胞を樹立することに成功し、肝細胞系譜へ誘導し、形質を比較検討することで、癌発生プロセスの一部を再現できるかについて、検証・解析している。
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