研究課題/領域番号 |
23K15076
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
楢原 哲史 熊本大学, 病院, 特任助教 (20930308)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法 / バイオマーカー / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
全世界で約78万人が罹患し、本邦でも予後不良の疾病対策上重要な疾患の一つである肝癌における全身化学療法の一つとして免疫チェックポイント阻害薬(ICI)アテゾリズマブと血管内皮増殖因子抗体ベバシズマブの併用療法(Atezo+Bev)が推奨され、多くの症例で投与されている。ICI特有の副作用(免疫関連有害事象:irAE)が重篤な場合は治療を中断せざるを得ず、その間に原疾患が増悪する可能性がある。一方で、irAEを来した患者は腫瘍縮小効果が得られやすいことが報告されており、irAEとICIの治療効果には何らかの相関があると考えられている。本研究ではAtezo+BevのirAE発症を早期に予測する新規バイオマーカー、判別式の開発を目的として2023年度までに99例の治療前後血清、57例の末梢血単核球(PBMC)、25例の糞便が保存された。 まず、Atezo+Bev治療におけるirAEと治療効果の関係を検討したところ、Grade3以上のirAEを認めた症例の方が有意に奏功(完全奏功/部分奏功)していた(P=0.005)。 次に、肺癌においてICI治療で生酪酸菌製剤CBM588およびプロトンポンプ阻害剤(PPI)による腸内細菌叢の変化が全生存期間、無増悪生存期間に影響するという報告があり、肝細胞癌における検討を行った。その結果、Atezo+Bevが投与された139例のうち、CBM588投与のある症例の方が投与のない症例と比較して有意に無増悪期間が短く(P=0.006)、一次治療99例およびPPIの内服がある97例においても同様であった(P=0.041、P=0.018)。以上のことから肝細胞癌おいても腸内細菌叢の変化がirAEや治療効果と直接相関する可能性が示唆された。現在は保存されている糞便のうち、19例を用いてマイクロバイオーム解析を受託で行い、これから結果の解析をする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023(令和5)~2024(令和6)年度の計画として 計画① Atezo+Bev併用療法のirAE症例を予測するExosomal miRNAの探索 計画② Atezo+Bev併用療法のirAE症例を予測するマイクロバイオーム解析 を予定していた。まず、Atezo+BevにおけるirAEと治療効果の関連ならびにirAEとCBM588やPPIの無増悪期間への景況を確認した上で、計画②を先行して実施し,保存されている糞便のうち、19例を用いてマイクロバイオーム解析を受託で行うことまで終了している。2年間で行う計画のほぼ半分を実施することができたため、この進捗状況の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
2024(令和6)年度には新しく開発したナノ多孔質ガラスデバイスを用いて、血漿サンプルからエクソソームを分離し、フェノール・クロロホルム抽出法を用いてエクソソームに結合するmiRNAを回収する。次にmiRNA-qPCR array解析で網羅的にExosomal miRNAを解析し、irAE発現に寄与するmiRNAを同定する。2025(令和7)年度には2023(令和5)年度から2024(令和6)年度でで得られたバイオマーカーを用いて、ROC解析を元にカットオフ値を設定し、各因子の重み付けを行い、より精度の高い判別式を作成する。さらにはこれらのバイオマーカーの免疫学的機序への影響を検討するため、irAE群と非irAE群より採取した末梢血20mLよりPBMCを回収し、各種免疫細胞(CD8陽性T細胞、Treg、MDSC、樹状細胞、M2マクロファージ)サブセットの頻度解析、ターゲット免疫細胞のSortingを行う。回収された各種免疫細胞に得られたバイオマーカーに関連する刺激を加えサイトカイン分泌試験を行い、免疫細胞の応答性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度はマイクロバイオーム解析のみを行ったため、2024年度に新しく開発したナノ多孔質ガラスデバイスを用いて、血漿サンプルからエクソソームを分離し、フェノール・クロロホルム抽出法を用いてエクソソームに結合するmiRNAを回収する。次にmiRNA-qPCR array解析で網羅的にExosomal miRNAを解析し、irAE発現に寄与するmiRNAを同定するため、Exosome抽出用試薬・qPCR解析用試薬に費用を充てる。
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