研究課題/領域番号 |
23K15132
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
原 知也 徳島大学, 病院, 助教 (00644577)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 慢性炎症 / 核酸受容体 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
1. 野生型マウスの大動脈に比べて、週齢が一致する動脈硬化モデルであるアポリポ蛋白E(ApoE)欠損マウスの大動脈には、DNase II、TLR9の発現が亢進傾向にあることを見出した。さらに、Cre/loxPシステムを用いて樹立したマクロファージ特異的DNase II欠損ApoE欠損マウスの腹腔内マクロファージでは、対照群(DNase II flox ApoE欠損マウスの腹腔内マクロファージ)に比べて、炎症性物質の発現が増加傾向であった。このことから、生体内において動脈硬化血管でDNase IIの発現が増加しており、DNase IIの欠損により炎症細胞であるマクロファージの炎症性物質の産生が増加するとの新規の知見を得た。 2. 全身性のDNase II欠損は胎生致死となるため、Cre/loxPシステムを用いてマクロファージ特異的DNase II欠損マウスを樹立した。ApoE欠損マウスを交配し、マクロファージ特異的DNase II欠損Apoマウスを樹立した。対照群としてDNase II flox ApoE欠損マウスを用いた。また一部の群のマウスは、生後8週齢から膵臓β細胞への毒性を持つストレプトゾシン(STZ、50mg/kg/day)を3連日投与し糖尿病モデルとした。12週間の西洋食負荷によって誘導される動脈硬化病変の大きさやプラーク性状、炎症性物質の発現などを対照群と比較検討した。その結果、非糖尿病群ではDNase IIの欠損による動脈硬化の形成に差異は認めなかったが、糖尿病群においてはマクロファージ特異的DNase II欠損ApoE欠損マウスでは有意に動脈硬化の形成や不安定化、大動脈壁の炎症が少なかった。このことから、糖尿病による自己細胞の細胞死が亢進した条件下では、DNase IIの欠損が動脈硬化の形成や不安定化、動脈の慢性炎症に寄与するとの新規の知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに実施した研究の進展状況に関しては、研究計画どおりに進展しており、現在までの研究段階の一部を論文として発表する準備に着手している。併せて、次年度に予定している研究計画の一部に関しては、既に事前準備に着手している段階である。以上の状況から、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1. DNase II欠損下における核酸受容体の役割の検討(in vivo) 本研究では、DNase IIの欠損によりマクロファージ内に未分解の核酸断片が蓄積し、その結果、核酸受容体を介したマクロファージの炎症性活性化が促進し、動脈硬化が進展すると仮説している。そこで、マクロファージ特異的DNase II欠損ApoEマウスにおいて、TLR9やSTINGなどの核酸受容体を欠損したマウスを作製し、STZ-糖尿病誘導下における動脈硬化の進展が抑制されるか否かを検証する。それにより、核酸断片-DNase II-核酸受容体が血管の炎症や動脈硬化病変の形成に与える影響を検証し、DNase IIだけでなく核酸受容体の動脈硬化の治療標的としての可能性を探索する。 2. マクロファージ活性化におけるDNase IIの役割の検討(in vitro) マウスのマクロファージ系培養細胞であるRAW264.7細胞を用い、内因性遊離核酸の一種・ミトコンドリアDNA(mtDNA)で刺激し、マクロファージからの炎症性物質の発現(活性化)を解析する。また、短鎖干渉RNA(siRNA)導入によりDNase IIをノックダウンし、炎症性物質の発現を比較する。また、後述するマウスから、チオグリコレート刺激によって、野生型およびDNase II欠損マクロファージを採取し、mtDNAやTLR9アゴニスト/アンタゴニストを作用させる。炎症性物質(MCP-1やMMP-9など)の発現や仲介するシグナル伝達系は、定量的RT-PCR(qPCR)やWestern blottingなどで検討する。これらの実験は、DNase IIや核酸受容体制御による、動脈硬化性疾患の治療や予防方法の開発を視野に入れた際、非常に重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの予備検討で既に購入していた余剰物品などを本研究に充てることができた点と、一部の旅費(情報収集・成果発表目的の学会出張など)が本年度ではなく次年度以降で計画する運びとなった点、以上2点が主な理由で次年度使用額が生じた。次年度は、より発展的な動物実験で検証を進めるため物品費、ならびに研究成果の発表のための旅費が多く必要になると予想されるため、次年度研究費と合わせて使用する計画である。
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