研究課題
気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息―COPDオーバーラップ(ACO)など閉塞性肺疾患においては、診断名と重症度のみに基づいた画一的な治療ではなく、疾患の背景にある分子病態: エンドタイプに基づいた個別化医療を提供することが昨今求められている。 研究者らは近年、ACOの病態をよく再現した簡便なマウスモデルを初めて報告した。本モデルでは、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン: NGALが臨床報告と同様にACOの病態を反映したバイオマーカーとなりうることを確認した。さらに、本モデルの2型肺胞上皮細胞を用いたシングルセル解析から、ストレス応答性転写因子: ATF5や母体発現遺伝子3: MEG3など未報告のバイオマーカー候補を複数見出した。本研究では、これらのバイオマーカー候補を中心に他細胞種でも、シングルセル解析、ゲノムワイドな発現解析、初代培養細胞や遺伝子改変マウスを用いた多面的な検討を行い、各バイオマーカーの発現細胞・機序も検証した。 また、喘息、COPD、ACOの3病態モデルを比較することで病態を浮き彫りにし、診断・ 予測マーカーを確立することを目標とした。さらには、ヒト検体を用いた解析も通じて臨床応用へと繋げていく予定である。今年度においては、各種マウスモデルを用いて上記遺伝子をターゲットとしたin situ hybridizationおよび空間的トランスクリプトーム解析を施行して、各モデル病態における発現細胞及び発現部位を同定した。さらに、scATAC-seq解析を行い、各2型肺胞上皮細胞サブセットにおける特異的なクロマチン状態を見出した、また、in vitroの実験では、各種遺伝子のノックアウト上皮細胞を作成した。また臨床検体の収集も同時に進めており、東京大学医学部附属病院呼吸器外科と連携して気管支喘息およびCOPD肺検体を順調に収集している。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画で当初予定していたマウスモデルに対するRNA in situ hybridizationや空間的トランスクリプトーム解析など、当初予定していた実験系を完遂することができた。また、臨床検体を用いた解析はまだ開始できていないが、順調に検体を収集することができている。
既に作成した各ノックアウト細胞を用いた機能解析を進めることにより、見出した各バイオマーカー候補の病的意義を明らかにしていく。また、収集してきた臨床検体を用いた解析により、ヒトへの応用可能性を検証していく。
物品費予算を1,000,000円計上していたが、想定よりも少量の試薬の使用で各実験を試行できたため635,718円の支出に収まった。一方で、病理組織学的検査の検体委託解析費が予定の100,000円を212,7990円超過し、312,790要した。結果として、151,492円の繰越額が発生した。次年度の試薬購入費や実験動物管理費用に充てる予定である。