研究課題/領域番号 |
23K15238
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
谷 崇 日本医科大学, 医学部, 助教 (30714555)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | HIF-PH阻害薬 / 造影剤腎症 / メタボロミクス |
研究実績の概要 |
造影剤腎症(CIN)の予防方法は点滴に限られており、新たな治療法の確立が急務である。HIF-PH阻害薬は、腎性貧血治療薬として臨床で用いられているが、動物実験においては、HIFの賦活化(HIF1α, 2α活性化)を介して虚血再灌流障害(IRI)時の臓器障害を抑制する。HIF-PH阻害薬は病態生理がIRIに近似する造影剤腎症に対しても有用であると着想するに至り、本研究では、エナロデュスタットが動物モデルにおいてCINの発症予防効果を示すこと示し、またその作用機序をメタボロミクスによる網羅的解析によって検証することを目的とし、以下の通り本年度の研究計画を遂行した。 雄のSprague-Dawleyラットを、Sham(偽手術)群 (Nx-S群)、vehicle投与群 (Nx-V群)、enarodustat投与群 (Nx-E群)の3群にランダムに割り当てた。Vehicle投与群 (Nx-V群)、および薬物治療群(enarodustat投与群 (Nx-E群))は造影剤投与の2週間前(15週齢)に右腎臓を摘出した。Sham(偽手術)群は右腎摘出を行わなかった。 17週齢時にNx-V群、および薬物治療群(Nx-E群)は、造影剤投与の3日前から手術当日まで、それぞれ偽薬、enarodustat 10mg/kg懸濁液を連日強制経口投与した。 造影剤投与前にラットにimdometacin(10 mg / kg)と L-NAME (10 mg / kg)を静脈内注射し、15分後にイオパミドール(3.7 g ヨウ素/kg)を経静脈的に投与した。手術後48時間(2日後)に屠殺し、蓄尿、血液、腎臓のサンプルを採取し、各種解析をおこなった。メタボロミクス解析に用いる腎組織は、液体窒素で凍結した状態のサンプルを外部検査機関(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社)に送付した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Nx-V群では造影剤投与後に血中BUN・Creが有意に上昇し、24時間CCr及び体重補正24時間CCrが低下した一方、Nx-E群の腎機能低下の程度はNx-V群に比して有意に軽かった。 屠殺時の腎組織病理学検査ではVehicle投与群では尿細管間質への炎症細胞浸潤、尿細管管腔内の蛋白円柱、尿細管壊死などを認めた。エナロデュスタット投与群ではこれら腎障害所見が軽度であった。 Lcn2( Ngal ), Havcr-1(Kim-1), TNF-αの腎臓組織中mRNA発現量はNx-V群で著しく上昇した一方、Nx-E群ではこれらの腎障害・炎症マーカーの上昇が抑制された。 CE‐TOFMS及びCE‐QqQMSによるラット腎臓のメタボローム解析の結果、主成分分析ではNx-S群とNx-V群およびNx-E群が比較的明瞭に区別され、薬物投与の有無より急性腎障害を起こす薬剤投与の影響の方が腎組織中の代謝物への影響が大きいことが示唆された。一方、PLS解析では、Nx-S群とNx-V群と比較してNx-E群の腎組織中で特徴的に増加・減少している代謝物の同定に成功した。この結果はHIF-PH阻害薬であるエナロデュスタット投与が腎組織中の代謝物に対して特異的に影響を与えていることを示唆する実験データであると考えられる。 上記の通り、概ね計画通りに実験計画は遂行できていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
CE‐TOFMS及びCE‐QqQMSによるラット腎臓のメタボローム解析の結果では、造影剤投与による急性腎障害が腎組織中の代謝物へ与える影響を裏付ける実験結果が得られた。またHIF-PH阻害薬であるエナロデュスタット投与が腎組織中の代謝物に対して特異的に影響を与えていることが示唆される実験データをメタボローム解析により得ることができた。 今後は実験結果のより詳細な解析を行い、適宜群間で差異を認めた代謝物の代謝に影響を与える酵素の腎臓組織中mRNA発現量を測定するなど追加検証を行う予定である。 また、実験により得られた知見は海外学会発表・学術論文などを通じて発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験計画は概ね順調に経過しているが、予算執行がやや遅延したため次年度使用額が発生した。
|