研究課題
エンドセリン(ET)は生理活性ペプチドであり、強力な血管収縮作用を有するばかりでなく炎症や組織障害、リモデリングなどに重要な役割を果たすことが知られている。近年、ET受容体拮抗薬(ETRA)は糖尿病関連腎臓病患者に対してRAS阻害薬を耐用量内服下においても、腎保護作用を示すことが報告された。またIgA腎症患者でもAT1受容体/ET受容体の合剤であるスパルセンタン(SP)投与による腎保護効果を検証されており、イルベサルタン投与群と比較し、蛋白尿を抑制するのみならずeGFR低下も抑制した。そこで本研究ではSPの腎保護効果の詳細なメカニズムを検証するためIgA腎症自然発症モデルであるgrouped ddY (gddY) マウスに、対照飼料 またはSP、ロサルタン(LS)をそれぞれ投与した。薬物血中濃度を測定し有効血中濃度であるか確認後に蛋白尿や腎臓におけるET-1-ETA受容体軸を含めた各種遺伝子発現を評価した。加えて血圧、血清IgA値、糖鎖異常IgA値を測定し、腎組織所見を確認した。その結果、血圧はSP投与群とLS投与群で同等であったにも関わらずSP投与群において蛋白尿は著明に減少した。SPは腎臓におけるET-1、AT1/ETA受容体、NF-κB、IL-6、MCP-1、TGF-βの発現を抑制し、腎組織所見はLS投与群と比し糸球体硬化、ポドサイト障害、内皮細胞障害が有意に抑制された。また組織障害度は蛋白尿の改善と強い相関を認めた。血清IgA値、糖鎖異常IgA値は対照飼料群とSP投与群で有意な差は認めなかった。本研究結果から内因性ETはIgA腎症の病態に深く関与し、SPは本症による末期腎不全さらには透析移行への進展を抑えることの実現につながる新規治療薬としての可能性が示された。本研究結果はNephrology Dialysis Transplantation誌にて報告した。
2: おおむね順調に進展している
IgA腎症におけるSPの腎保護効果のメカニズムを本研究で検証し、研究結果をNephrology Dialysis Transplantation誌(2024 Jan 25: Online ahead of print.)にて報告したため本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
今後はIgA腎症におけるETRAの腎保護効果のメカニズムのさらなる検証のみならず、その他の腎疾患におけるETRAの腎保護効果、そしてメカニズムの検証やSGLT2阻害薬との併用による腎保護効果についての検討も行っている。
研究費を効率的に使用したため、残額が生じた。次年度以降の研究で使用していく予定である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Nephrology Dialysis Transplantation
巻: Online ahead of print ページ: -
10.1093/ndt/gfae021.