研究課題/領域番号 |
23K15264
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
長谷川 瑛人 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (90749574)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 重症薬疹 / ネクロプトーシス / インフラマソーム |
研究実績の概要 |
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)は、広範囲のびらん を特徴とする、重篤な薬疹である。SJS/TENでは、表皮細胞がアポトーシスやネクロプトーシスというタイプの細胞死を起こす。このアポトーシス経路とネクロプトーシス経路は、インフラマゾーム経路と互いに関与し合う。インフラマゾーム経路は、IL-1βやIL-18を細胞外へ放出されることで周囲に炎症を起こす他、パイロトーシスという細胞死を引き起こす。本研究は、SJS/TENの病態にインフラマゾーム経路が関与するかを解明することを目指した。 これまでに、SJS/TENの病変部の表皮細胞で実際にパイロトーシスが起きていることを明らかにしている。不死化表皮細胞であるHaCaT細胞にP2X7受容体刺激とFPR1刺激を加えることで重症薬疹に特異的な細胞死であるネクロプトーシスを誘導できることが確認できていたが、ネクロプトーシスだけでなくアポトーシスとパイロトーシスも混在することを発見した。 重症薬疹のモデル細胞においては、FPR1刺激によってネクロプトーシスが生じることは証明されているが、アポトーシスやパイロトーシスが生じる機序については解明されていない。FPR1への刺激により、直接的にアポトーシスやネクロプトーシスのシグナルが活性化していることか、ネクロプトーシスのシグナルからの相互作用により間接的にアポトーシやパイロプトーシスの経路が活性化していることが仮説として考えられる。 今後はFPR1刺激によってアポトーシスやパイロトーシスが生じる機序の解明を目指す。これまでに樹立した重症薬疹モデル細胞を用いて解析を行う予定である。 またSJS/TENモデルマウスを用いた解析も予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、SJS/TENの病態にインフラマゾーム経路が関与しているかを解析し、新規のバイオマーカー探索を目標としている。本研究は①細胞モデルを用いた解析、②SJS/TENモデルマウスを用いた解析、③multiplex assayを用いた網羅的な解析の3つの要素から構成される。 昨年度はSJS/TENモデル細胞を用いて、細胞死の解析を行った。本研究の事前検討にて、SJS/TEN患者の病変部皮膚において、アポトーシスやネクロプトーシス以外にパイロトーシスも混じていること見出している。培養細胞を用いた系においては、不死化表皮細胞であるHaCaT細胞にP2X7受容体刺激とFPR1刺激を加えることで重症薬疹に特異的な細胞死であるネクロプトーシスを誘導できることを確認していた。この細胞モデルにおいて、ネクロプトーシスだけでなくアポトーシスとパイロトーシスも混在してみられることを発見した。 また、本研究はモデルマウスを用いた解析も行う。免疫不全マウスに、重症薬疹治癒後の患者の末梢血単核球を静注し、原因薬剤を投与することで、眼症状が出現する。SJS/TENは皮膚のみならず腎臓や肺などの臓器障害もきたす疾患である。他臓器の解析は実際の患 者サンプルを用いて行うことが難しいため、モデルマウスを用いて解析を行う必要がある。昨年度は、SJS/TENモデルマウスを作成し、眼、皮膚、腎臓、肝臓などの臓器サンプルの採取を行った。 昨年度の研究により、SJS/TENモデル細胞の細胞死形態の解析を行い、またモデルマウスでの解析の準備段階として、臓器サンプルの採取まで行えており、おおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で、SJS/TENモデル細胞における細胞死形態の解析を行った。重症薬疹のモデル細胞においては、FPR1刺激によってネクロプトーシスが生じることは過去に解明していたが、FPR1刺激によりアポトーシスやパイロトーシスが生じる機序については解明されていない。FPR1への刺激により、直接的にアポトーシスやネクロプトーシスのシグナルが活性化していることか、ネクロプトーシスのシグナルからの相互作用により間接的にアポトーシやパイロプトーシスの経路が活性化していることが仮説として考えられる。 今後はFPR1刺激によってアポトーシスやパイロトーシスが生じる機序の解明を目指す。これまでに樹立した重症薬疹モデル細胞を用いて解析を行う予定である。 また、昨年度の研究でSJS/TENモデル細胞を作製し、眼、皮膚、腎臓、肝臓などの臓器サンプルの採取を行っている。このサンプルを用いて病理学的な解析、アポトーシスやネクロプトーシス、パイロトーシスなど、重症薬疹の表皮細胞でみられる細胞死が生じているか解析する。 SJS/TEN患者血清からmultiplex assayを用いてインフラマゾーム関連分子を含め、多数の項目を網羅的に解析する。発症時、悪化時、回復期など、各病期におけるサイトカインなどの分子の推移のパターンを解析し、病態の時間的な変遷の解明を目指す。候補となるマーカーについては、ELISA法でも発現の上昇を確認する。複数の項目を組み合わせて解析することで、より正確に病期や重症度の予測が可能になると期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
不死化表皮細胞であるHaCaT細胞に対して、P2X7受容体刺激とFPR1刺激を加え、重症薬疹モデル細胞を作製する。昨年度の研究において、細胞死の解析が順調に進んだため、P2X7受容体刺激とFPR1刺激に用いる試薬を想定より使用する量が少なく、次年度使用額が生じた。 本年度は細胞死の機序のより詳細な解明を行うため、細胞モデル、マウスモデルの解析をより促進して行う予定である。
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