研究課題
中枢神経系原発悪性リンパ腫(Primary central nervous system lymphoma: PCNSL)は脳内に原発する悪性リンパ腫で、殆どの症例はびまん性大細胞性B細胞リンパ腫 (Diffuse large B cell lymphoma; DLBCL)の病理形態を示す。ゲノム解析を通じて、約70%の患者において腫瘍からL265P MYD88変異が認められることを確認した(British Journal of Haematology 2016)。全身性DLBCLにおいても同様の遺伝子変異は報告されているものの、それらと比較するとPCNSLにおける変異頻度のほうが各段に高いことが示された。特に免疫異常に関係する遺伝子の変異(B2M、CD58、HLA-A/-B)や、PDL-1/PDL-2の発現上昇やゲノム増幅をPCNSLにおいて高頻度に認めたことから、全身性DLBCLとの遺伝子型と表現型の違いの原因として、脳内の特殊な免疫環境が影響しているという仮説を立てた。その検証のために、新規核酸定量システムnCounterを使用して40症例のサンプルに対してRNA定量解析を行い、腫瘍細胞及び環境因子に関連した遺伝子発現のレベルを確認した。並行して、DLBCLで高頻度に変異が見られる遺伝子をターゲットとして、同一サンプルに対して変異解析を行った。現在、PCNSLの微小環境の解明のため、遺伝子変異と免疫細胞の分布パターンとの関連について解析中である。解析の際には、Newmanらの開発した、各細胞腫の構成比を推定する手法であるCIBERSORT や、東大医科研のスーパーコンピュータSHIROKANEを用いて小川、宮野らが開発したパイプラインであるGENOMON を用いて解析を行った。いずれの解析技術も申請者はすでに確立し、殆どのサンプルにおいて結果を得ている
2: おおむね順調に進展している
研究成果を昨年度血液学会総会で発表をしている。現在、研究成果を論文にまとめて投稿することを検討している
PCNSLの生検体をセルソーターによって腫瘍と腫瘍以外の細胞に分離した上で、10XGenomicsを利用したシングルセルシークエンスを行うことで、特定の発現プロファイルをとる微小環境細胞の分布や細胞間相互作用を一細胞レベルで明らかにしていく。並行して、PCNSLで高頻度に変異が見られる30遺伝子について変異解析を行い、遺伝子変異プロファイルと微小環境細胞の分布との関連を調べる。その際、Newmanらの開発した、各細胞腫の構成比を推定する手法であるCIBERSORTx や( Newman, Nature biotechnology 2019)、東大医科研のスーパーコンピューターSHIROKANEを用いて小川、宮野らが開発したパイプラインであるGENOMONを用いて解析を行う。いずれの解析技術も申請者は既に確立している。次に、免疫細胞サブセットに関連するマーカー遺伝子を基にパネルをカスタマイズし、nCounterシステムでFFPEの解析を行う。生存予後を始めとした臨床データとの関連を解析し、層別化を図る。加えて、各免疫細胞サブクラスターに最も特異的な蛋白発現を利用して、筑波大学附属病院に保存している約100 症例分のFFPEに対して免疫組織染色を行い、蛋白発現をしている細胞を特定し、発現量と臨床データ(生存期間、再発の有無など)との関連を解析し、nCounter解析結果の検証を行う。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 3件)
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