研究実績の概要 |
申請者らはミトコンドリアにおけるUcp1の作用を介して熱を産生することから「エネルギー消費の促進」を介した肥満や糖尿病の治療標的として期待される褐色脂肪細胞に注目し、その分化を制御する鍵因子nuclear factor I-A (NFIA)を同定し作用メカニズムを解析してきた(Hiraike Y., et al Nature Cell Biology 2017, PLoS Genetics 2020, iScience 2022)。脂肪細胞特異的NFIAトランスジェニックマウスは高脂肪食負荷条件において野生型と比較して全身のエネルギー消費が亢進しており、肥満が抑制され耐糖能も保たれていた。NFIAトランスジェニックマウス由来の白色脂肪細胞では予想通り褐色脂肪細胞特異的遺伝子群およびミトコンドリアにおける酸化的リン酸化に関与する遺伝子群が正に制御されていた一方、炎症を促進する遺伝子群は予想外に負に制御されていた。NFIAは脂肪細胞から分泌され全身の炎症を促進し肥満や糖尿病を増悪させる因子として良く知られるMCP-1の発現を抑制し、結果として脂肪組織の慢性炎症を改善させた。すなわちNFIAはミトコンドリアの活性化ならびにエネルギー消費の亢進作用と抗炎症作用の双方を介して肥満や糖尿病に保護的に作用する(Hiraike Y., et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2023)。NFIAが標的遺伝子を正に制御する場合と負に制御する場合を規定する「文脈特異的」な転写制御機構を理解するための解析を進めている。
|