研究課題
先行研究により、マウスの下大静脈を70%結紮 (partial IVC ligation; pIVCL)することにより慢性うっ血肝を発症するマウスでは、術後6週で肝線維化が、術後54週で肝細胞癌が発症することを明らかにした。また慢性うっ血による肝線維化・腫瘍増大の機序の一端として、肝類洞内皮細胞の毛細血管化(Capillarization)という現象が生じ、毛細血管化した肝類洞内皮細胞由来のスフィンゴシン1リン酸が肝線維化・肝癌増大に寄与することを明らかにした。今回(2023年度)、うっ血肝モデルマウスの肝臓形態評価・病理学的評価をマウス造影CTや病理検体を用いて施行したところ、肝線維化・肝癌の発症部位には局在性があることが明らかになった。また、うっ血肝患者(FALD:Fontan-associated liver disease)のMRelastographyでは、肝辺縁優位に肝硬度上昇が生じていることが確認され、人でも同様の病態が生じている可能性が示唆された。一方、四塩化炭素やコリン欠乏食を用いた肝線維化モデルマウスでは、肉眼レベルでの線維化局在性は認めなかった。本モデル (gradation モデル)は、肉眼レベルで「肝臓被膜側(末梢側)」で「肝門部(中枢側)」よりも高率に肝線維化・肝腫瘍が形成されるモデルマウスであり、本結果からは腫瘍細胞が増大しやすい肝内微小環境の不均一性が存在していることが示唆された。Lasermicro dissection法を用いて局在別にRNAseq 解析を施行することで、肝線維化・腫瘍増大の局在性形成に関与しうる遺伝子群を複数同定し、論文報告した。
3: やや遅れている
Gradation モデルマウスを用いた線維化・腫瘍局在解析を施行し、局在性形成に関与しうる遺伝子群を複数同定し、論文報告として成果を発表できた点は、概ね順調に進展している一方、腫瘍細胞・肝類洞内皮細胞の相互作用解析、臨床データ解析が進展せず、全体としてはやや遅れが生じている。
今後、細胞単離実験を行い、腫瘍細胞ー肝類洞内皮細胞の相互作用解析を施行する。今年度の局在性解析で得られたデータをもとに、薬剤・遺伝子改変マウスによる介入実験を行い、真に局在性形成に関与していると考えられる遺伝子を同定することで、新規治療に繋げていくことを目標とする。また、原発性肝癌・転移性肝癌症例の画像解析により、実臨床における肝腫瘍局在性の検証を行うために倫理申請、検証準備を整える。
今年度、腫瘍細胞と類洞内皮細胞の相互作用解析を含めた細胞培養実験、遺伝子発現網羅的解析等の実験が施行できなかった。次年度以降に実験を調整したため、残額は次年度以降に使用いたします。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Liver International
巻: 43 ページ: 1213~1224
10.1111/liv.15568
Cureus
巻: - ページ: -
10.7759/cureus.50934
Hepatology Communications
巻: 7 ページ: -