研究課題
本研究の目的は、「極性破壊シグナル」として作用するExosome内包Tyro3の血管内皮細胞EndMTに与える影響を明らかにし、Tyro3の膵癌血行性転移に対する機能と、膵癌に対する新たな治療標的分子としてのTyro3の可能性を検証することである。令和5年度(2023年度)に実施した研究の結果、膵癌培養細胞(Panc1)上清のExosome画分にTyro3発現があること、その上清処理を行った血管内皮細胞(HUVEC)においてTyro3の発現増多と内皮細胞の細胞極性マーカーの変化を、申請時の仮説の通り見出すことができた。同時に、preliminaryな結果ではあるが、膵癌細胞株に由来するExosome内包Tyro3刺激によるHUVECの形態・機能的な変化も見出しつつあり、膵癌が分泌するEsoxome内包Tyro3によるParacrine signalingの腫瘍微小環境に対する影響が示されつつあるものと考える。悪性腫瘍由来のExosomeは、腫瘍のみならず、原発巣、遠隔臓器を含む癌微小環境に対して腫瘍促進的に作用していることが報告されており、膵癌においてはその高い転移能が予後悪化の強い因子であることから、「膵癌由来Exosome中のTyro3が、「極性破壊シグナル」として原発巣と遠隔転移臓器血管内皮細胞の極性制御機構に対して影響を及ぼし、EndMT(内皮間葉転換)が生じた結果、転移ニッチが形成され膵癌の進展(血行性転移)が促進される」という作業仮説を、引き続き検証する予定である。
3: やや遅れている
令和5年度(2023年度)研究により確認できたことを以下に示す。①膵癌細胞(Panc1)のTyro3の過剰発現株の培養上清から回収したExosome分画において、Tyro3発現が上昇していることが確認できた。②膵癌細胞株(Panc1)培養上清由来のTyro3包含Exosome刺激により、血管内皮細胞(HUVEC)において、VE-Cadherin発現がExosome刺激により減弱し、aPKC発現が減弱することが確認できた。以上の変化から、膵癌に由来するExosome中Tyro3が血管内皮細胞に作用し、EndMTを惹起している可能性が示されつつあるものと考える。また、当初の計画にある表現系に変わりのないGFP標的Tyro3発現膵癌細胞株の作成に難渋しているため、進捗区分として「やや遅れている。」を選択した。
令和6年度(2024年度)は、過年度に行った細胞実験を他の膵癌細胞株でも継続すると同時に、GFP標的Tyro3発現膵癌細胞株(GFP株)の作成を継続する。膵癌細胞由来のTyro3包含Exosome刺激による血管内皮細胞(HUVEC)の変化(細胞増殖能・遊走能・浸潤能)評価を行い、引き続き細胞間接着因子(VE-Cadherin、ZO-1、Claudin)の変化をWesternBlot法、PCR法、免疫蛍光染色法で評価する。また、Tyro3強制発現株(O/E株)は既に作成済なので、これに対しsiRNAを用いたKnockdown株(sh株)を用いて、Exosome中Tyro3発現量をWesternblot法で評価する。さらに、O/E株、sh株、GFP株が使用可能になった後には、これらの細胞を用いたin vivoの実験としてマウス膵癌血行性転移モデルを作成し、Exosome処理有無での血行性転移の変化の評価を行う。
GFP標的Tyro3発現膵癌細胞株の作成に遅延が生じている。結果、当初予定していた細胞実験の実施に加え動物実験の開始が遅れているため、次年度使用額が生じている。令和6年度は遅延が生じているGFP標的Tyro3発現膵癌細胞株を作成し、過年度に実施できなかったin vitroの実験に加えて、in vivoの実験を実施する予定である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 14件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (2件)
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