研究実績の概要 |
我が国における癌患者数および癌死亡数は増加傾向にあり、特に難治性消化器癌の一つである胃癌は2020年の部位別癌死亡数で肺癌に次いで2番目に多い。発見・診断時に遠隔転移や局所進行のため切除不能な症例も多く、根治手術後も再発頻度が高く、再発後の治療は抵抗性が高く予後が悪い。このため、新たな治療法の開発が望まれる。近年、ユビキチン・プロテアソーム系を標的とした治療が注目されている。ユビキチン修飾系はタンパク質の翻訳後修飾系であり、細胞周期やシグナル伝達、転写調整などを制御している。ユビキチン修飾系の異常は様々な疾患や発癌と関連しており、特に癌の浸潤、転移、再発に関与することが示されている。E3ユビキチンリガーゼであるSCF複合体の構成分子Skp1やβ-TrCP、FBXW7などの発現異常が様々な癌で確認されており、これらの異常は癌の悪性度や薬物治療抵抗性に関連している。
我々の研究室では、SCF複合体の構成分子であるCUL4Aに注目している。食道癌組織では正常組織に比べてCUL4Aが過剰発現しており、高発現は腫瘍の壁深達度、静脈侵襲、リンパ節転移、遠隔転移と有意に関連していることを確認した。CUL4A高発現腫瘍は5年全生存率や5年疾患特異的生存率が有意に予後不良であり、CUL4A過剰発現は食道癌の進展に深く関与している。また、CUL4A高発現は独立した予後不良因子であり、臨床的意義を有することが確認された(Nakade H, et al. 2020)。これらの結果から、CUL4Aは消化器癌において腫瘍増殖、浸潤、転移に重要な役割を担い、治療抵抗性の一因となるため、新たな治療標的となりうる可能性がある。
|