研究課題
1細胞内解析技術iSCseqを洗練させた。細胞内遺伝子発現情報を網羅的に解読することで、1細胞内には複数の遺伝子発現パターンを内在できること、さらには複数の分化段階を許容できることが明らかになった。シングルセル解析の公共データを用いた統合解析を行った結果、破骨細胞のサブセット同定に成功した。より骨吸収能が高いサブセットは、生理的な骨の中には存在しないが、骨腫瘍やがん骨転移など病的な骨破壊が進む場所には存在することを明らかにした。さらに、ネットワーク解析の結果、破骨細胞分化と融合を切り分けて議論することが可能になった。融合の初期の段階では、分化経路に乗らない細胞成分が含まれることが明らかになった。これまで1方向に細胞の分化は進むと考えられてきたが、多核細胞の分化・融合は、複雑な進行を辿ることが初めて明らかとなった。また、骨腫瘍、がん骨転移部において、なぜ病的骨破壊が起こるのか、新しく同定した破骨細胞のサブセットが一因と考えられた。iSCseq法は、生きた細胞の遺伝子発現を捉える技術として、国際的認知度も上昇しつつある。一方で必須の機器であるSS2000は、東京大学学内に未設置であり、研究環境の整備が必要な状況は改善できていない。また、1細胞分画ごとのライブラリ調整およびシーケンスにかかるコスト削減の必要など、課題も残されている。研究をさらに飛躍させるためには、共同研究先との関係性を維持しつつ、研究内容のアピール、アウトリーチ活動も必須と考えている。さらなる支援を必要としている状況である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究成果は、ハーバード大学との国際共同研究で進めた。すでに国内外の学会シンポジウム研究会で複数報告し、エキスパートとの議論を通して、さらに理論を深めた。iSCseq論文は、bioRxivで結果はすでに公開しており、2024.4.1現在13kを超えるアクセス数を得ており、iSCseqが世界に普及していることを示す結果となっている。さらに解析技術については、Practical Compass of single cell RNA-seq.として、Curr Osteporos Res誌にアクセプトされた。学会発表は国内国外とも積極的に行った。American Society for Bone and Mineral Research (ASBMR) annual meeting 2023; Cold Spring Harbour Laboratory Meeting "Single Cell Analyses" 2023; Gordon Research Conference "Bones and Teeth" 2024; AGBT 2024にて、国際学会, 口演発表を行った。Cell Bio 2023, Discover BMB by ASBMB 2024での国際学会, ポスター発表を行った。
iSCseq論文は、一流国際誌に投稿し、査読を受けているところであり、本年度中にpublicationに至ることが期待される。2024年度も国内国際学会での発表を行い、普及に努める。ハーバード大学歯学部との国際共同研究を継続し、iSCseq projectの次の国際共同研究成果をまとめるべく、現在尽力しているところである。iSCseqによって骨を壊す破骨細胞が成り立つメカニズムとして、融合・多核化に関わる細胞の順序への糸口が見えた。同手法の拡張として、まさに細胞融合を起こしている現場を捉えるなどが考えられる。iSCseq法に必須の機器であるSS2000(Yokogawa)は資金不足のため調達できていない。申請者がJSTなどの大型予算へのアプライを継続する、後進の育成などアウトリーチ活動を行うなど、研究を邁進するための環境整備も合わせて行っていく所存である。
本年度途中に、急遽Spatial Transcriptomicsが私たちの実験対象にも応用可能な技術になりました。そこで実験計画を見直した結果、次年度に計画を上回る支出が必要な見込みとなりました。当初計画とは異なり本年度は他予算での運用で研究を遂行し、次年度の大型出費に備えることにしました。研究は順調に進んでおり、合目的的研究費の執行ができていると評価しています。よろしくご配慮ください。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 4件)
bioRxiv
巻: - ページ: -
10.1101/2022.09.05.506360
Current Osteoporosis Reports
10.1007/s11914-023-00840-4