研究課題/領域番号 |
23K15768
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 勇太朗 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (70813434)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 尿路結石 / カルシウム結合タンパク質 / 多重イメージング解析 / 隕石学 / 鉱物学 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
本研究では、鉱物学・隕石学の分析技術を応用した結石内の微細構造に対して複数のタンパク質を同時に可視化する技術で、尿路結石に含まれるCalcium Binding Proteinの結石成長に及ぼす詳細な機能を解明することを目的としている。2023年度~2024年度にかけて、まずは複数の結石サンプルから内部構造の詳細な分析を可能とする薄片を作成した。まず【研究1】として、薄片を用いてマイクロCT、偏光顕微鏡観察、さらに顕微フーリエ変換赤外分光分析およびラマン分光分析を行い、結石を構成する無機成分の構造・分布解析を行った。【研究1】で分析を行った試料に対して、【研究2】として標的Calcium Binding Proteinに対する多重免疫染色・SEM解析を行い、有機成分の構造・分布解析を行った。今回ターゲットとしたタンパク質は、Calcium Binding Domainといった特有のアミノ酸配列をもち、その配列や構造の違いに応じて局在が異なることを見出した。また、Calcium-binding protein以外の微量タンパク質は、結石内に取り込まれないことも明らかにした。 さらに我々は、なぜCalcium Binding Proteinは結晶内部に取り込まれ特徴的な分布を示すのかという学術的な問いついて研究を進めている。【研究1】【研究2】で得られた結果から、タンパク質が結晶に取り込まれる要因として、Calcium Binding Domainに対応した結合できるカルシウムの数が重要であることが分かった。さらに、タンパク質と結晶面との付着には結晶面がもつ原子配列とCalcium Binding Domainの構造との親和性が重要であることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手術で回収したシュウ酸カルシウム結石から薄片(N=7)を作製した。その薄片を用いて、無機成分(一水和物(COM)二水和物(COD))に対する構造解析として、偏光顕微鏡およびラマン分光分析を行った。さらに有機成分に対するイメージング解析として、8種類のCalcium-binding protein(OPN、RPTF-1、Cal-A、Albumin、THP、HMBG、Protein Z)、そしてnon Calcium-binding protein(Lysozyme)をターゲットに多重免疫染色を行った。無機成分の構造解析の結果から、結石を構成する無機成分の結晶を、菱形構造COD、不均一構造COM、層構造COMの3つに分類した。有機成分のイメージング解析結果から、菱形構造COD結晶ではOPN、HMBG、RPTF-1、Protein Zは結晶内部に局在し、OPN、HMBGはCOD結晶面{110}に、RPTF-1、Protein Zは{101}に偏在しやすい傾向にあった。一方、Cal-A、Albumin、THPは結晶表面、Lysozymeは結晶外に局在していた。層構造COMでは、OPN、HMGB、RPTF-1、Protein Zが均一な間隔で層状に、それ以外のタンパク質は不均一な間隔で層状に局在していた。今回新たな分析技術を応用したことで、結石を構成する結晶において8つタンパクの局在の違いを明らかにした。結晶内部であったOPN、HMBG、RPTF-1、Protein Zは、そのCalcium Binding Siteのアミノ酸と結晶面の原子配列との高い親和性によって、特異的に結晶面に付着し結晶内部に取り込まれことがわかった。一方、結晶表面であったCal-A、Albumin、THP は、結晶面との低い親和性によって、非特異的に結晶表面に付着し結晶内部に取り込まれないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、尿路結石を構成するタンパク質の網羅的な二次元・三次元的イメージング解析を引き続き行っていく予定である。尿路結石に含まれるタンパク質は100種類以上同定されている。そのうち、カルシウムを多く含む結晶に付着しやすいドメインをもつタンパク質(Calcium-binging protein)はこれまで分析したOPN、RPTF-1、Cal-Aを含め約20種類存在する。まずは、これまで分析できていないタンパク質(Glis2, CalB, Bikunin etc)をターゲットに解析を進め、より精度を高めていく予定である。さらに、Calcium-binding protein以外の微量タンパク質に対しては、液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)分析を応用したイメージング解析を行う予定である。しかし、結石からタンパク質を精度よく抽出することが難しい課題であり、その前段階としてヒトの尿を用いてタンパク質の抽出を試みている。具体的には尿をフィルターろ過、透析、カラムクロマトグラフィーを用いて精製し、その後Western blottingや二次元電気泳動を行い、タンパク質を分離している。その手法が確立できた段階で、実際の結石からタンパク質の抽出を行いLC-MSを用いたイメージング解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた尿路結石を用いた多重イメージング解析の研究では、既存の機器・試薬で結石の薄片を作成し、無機成分に対する構造解析およびタンパク質の蛍光免疫染色によるイメージング解析ができたため、当初予定していた実験機器・試薬購入費用が不要となり、2023年度に物品費の使用残額が発生した。発生した使用残高は、2024年度に予定しているタンパク質の構造解析を目的として、使用する実験機器、試薬購入にかかる物品費として使用する計画である。具体的には、精密かつ高度な構造解析を目標として、まず尿および結石からタンパク質を抽出し、フィルターろ過、透析、カラムクロマトグラフィー精度よく精製し、Western blottingや二次元電気泳動を行い分離した後に、タンパク質に対してMS解析を予定している。それらの手法が確立できた時点で、結石薄片を用いた網羅的イメージング解析「マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)」を取り組む予定である。 また、Calcium Binding Proteinの中には、Calcium Binding Domainの特性が理解できないタンパク質も多く存在する。その場合、大腸菌から目的とするタンパク質を合成し、Domainの性質を評価する必要性がある。次年度はそうした新たな課題にも取り組んでいく予定である。
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