研究課題
本研究は、多能性幹細胞から下垂体LH/FSH産生細胞を分化させ、排卵を惹起するLHサージの詳細メカニズムの解明やそれを制御する薬物の開発に応用することを目指しており、in vitroで視床下部ー下垂体ー性腺軸を再現することで高齢難治性不妊の治療法開発に貢献できると考えている。①既報の下垂体誘導法を基に様々な条件下でヒト多能性幹細胞からLH/FSH産生細胞の分化誘導を試みたが、目的とする細胞の効率的な分化は困難であった。そこで、ヒト多能性幹細胞から分化させた下垂体オルガノイドに下垂体幹細胞が存在することを確認し、下垂体幹細胞からLH/FSH産生細胞を分化させる方針とした。下垂体幹細胞のマーカーを選出し、同遺伝子をm-cherryで標識したヒトES細胞、iPS細胞を作成したうえで、既報の下垂体分化法に則って下垂体オルガノイドの分化を行った。現在、作成した下垂体オルガノイドでの同マーカー遺伝子の発現を調べることで、下垂体幹細胞の存在を確認している。②マウスおよびヒト多能性幹細胞からキスペプチンニューロンを分化誘導させる方法を検討し、それぞれ蛍光免疫染色にてキスペプチンの発現を確認した。マウスでは、既報のヒト視床下部オルガノイド誘導法を基に、より腹側化させるための物質Aと既報にてキスペプチンニューロンの分化に必要と報告されている物質Bを様々な条件で添加してキスペプチン陽性細胞の分化を確認した。ヒトでは、下垂体・視床下部オルガノイド誘導法を基に、視床下部への分化を阻害する物質Cを使用しないことで視床下部を優先的に分化させる方法を見出した。上記研究は第75回、第76回日本産科婦人科学会学術講演会、第97回日本内分泌学会学術総会にて学会発表を行い、論文投稿を予定している。
3: やや遅れている
ヒト多能性幹細胞から下垂体LH/FSHへの分化誘導は困難であったことから、はじめに分化させた下垂体オルガノイドに下垂体幹細胞が存在することを確認し、まずは下垂体幹細胞を分化精製することを試みた。下垂体幹細胞マーカーの選出および、同遺伝子ををm-cherryで標識したiPS細胞を作成したため、当初の計画よりはやや進捗が遅れている。しかしヒト多能性幹細胞から分化させた下垂体オルガノイドに下垂体幹細胞が存在することを確認したため、今後は下垂体発生の既報を参考に、分化誘導条件の検討をすすめていく。
分化した下垂体幹細胞からLH/FSH産生細胞の分化誘導を試みる。胎生期の下垂体発生に関する既報を参考に、LH/FSH産生細胞の分化との関連が報告されているBMP2、GnRH、DAPTなどをさまざまな条件で添加して培養し、LH/FSH再生細胞を効率的に分化させる方法を検討する。LH/FSH産生細胞の前駆細胞で発現することが報告されている遺伝子に関して、培養途中でこれらの遺伝子発現を確認することでLH/FSH産生細胞の分化経過を確認しながら分化を目指す。分化したLH/FSH産生細胞に対しては、GnRHを添加してLHやFSHの産生・分泌が亢進し、生体内と同様に反応することを確認したうえで、体外で分化させたキスペプチンニューロン、GnRHニューロンと共培養し、ヒト生殖中枢をin vitroで完全に再現させる。上記成果を学会発表および論文にて報告予定である。
当該年度においては、すでに前年度に購入していた消耗品を多く使用したため、新たな消耗品の購入が少なかった。次年度は下垂体幹細胞からLH/FSH産生細胞を分化させるにあたり、培地や各種誘導因子をはじめとした消耗品が多く必要になってくるため、順次購入予定である。
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