研究課題/領域番号 |
23K15834
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山ノ井 康二 京都大学, 医学研究科, 助教 (70868075)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ステアリン酸 / パルミチン酸 / オレイン酸 |
研究実績の概要 |
ステアリン酸ががん細胞に及ぼす影響を探索した。6種類の卵巣癌細胞株を用いて検討したが、全ての卵巣癌細胞株で、ステアリン酸は強く細胞増殖を抑制し、オレイン酸はその効果を減弱するという画一的な影響を及ぼした。卵巣正常上皮の不死化細胞株でも同じような結果が得られたため、卵巣という組織に要因がある可能性が想起された。 そこで、由来となる臓器を増やし、肺がん、乳がん、大腸癌の細胞株それぞれ4種類ずつ加えて、ステアリン酸、パルミチン酸の影響を検証した。その結果、乳がん細胞株の一部(MDA-MB-453)、大腸癌細胞株の一部(DLD-1, HCT116)はパルミチン酸、ステアリン酸とも細胞増殖を強く抑制した。また一方、肺がん細胞株の一部(H1299)や乳がん細胞株の一部(MCF7)は、ステアリン酸、パルミチン酸共に細胞増殖抑制効果が弱かった。特に、正常乳腺上皮であるMCF10Aも用いた検討をしたところ、これはステアリン酸、パルミチン酸とも増殖抑制効果がなかった。正常卵巣上皮の結果も併せて考えると、臓器によって飽和脂肪酸の及ぼす影響の違いが少なくないことが想起された。 また脂肪酸が及ぼす影響が小胞体ストレス応答であることから、小胞体に関連しうる脂質分画の探索を、網羅的なLipidomics解析で探索した。OVCAR5を用いたPreliminaryな検討であるが、ステアリン酸の投与により、本来ほとんど存在しないDi -stearate-PIが多く出現しており、小胞体ストレス応答に関与する可能性を想像している。今後、特にステアリン酸の感受性に着目して、感受性が高い細胞株に共通する変化、感受性の低い細胞株に共通する変化を探索する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ステアリン酸、パルミチン酸の感受性のHeterogenecityを、癌腫横断的に探索することで明らかにすることができた。これにより、感受性の違いを規定する因子を、網羅的に探索するMaterialを確保できたと考えている。このような研究は他になく、我々独特の結果であり、順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ステアリン酸の感受性が高いもの、低いものとの間で、発現する遺伝子の違いを網羅的に探索する。同時に、これらの脂肪酸を添加したときに細胞内の脂質分画の変化や、Metaboliteの変化をについても探索して、細胞死に寄与する分画を検討する。中でも小胞体に関連する変化に着目することで、小胞体ストレス応答経路への影響の違いを探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子発現の網羅的解析、メタボローム(メタボライトの網羅的解析)、リピドーム(脂質分画の網羅的解析)に多額の費用がかかることが見込まれていた。そのため、確実にステアリン酸の感受性が異なるサンプルを選ぶため、時間を要した。結果的に昨年度にメタボローム、リピドームができなかったために、使用額が生じてしまった状況である。現在、いくつかの候補を絞ることができたので、本年度にこの解析を予定している。
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