研究実績の概要 |
急性的な前庭機能障害による臨床症状は、中枢での代償機構により症状が緩和されるが、高度前庭障害では、前庭代償不全によるめまい・歩行障害などの症状が持続するにも関わらず、 根本治療は未だ存在せず、その確立が急務であると考えられる。近年、多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)を用いた再生医療の基礎研究が国内外で報告され(Sasai, Nature 2013; Takebe et al, Cell Stem Cell, 2015など)、それらの臨床的展開として、眼科・神経領域などの分野で、急速な臨床応用が先行している。内耳領域でも、多能性幹細胞より内耳有毛細胞への分化誘導が開発され(Koehler et. al., Nature, 2013など)、 高度前庭障害に対する有毛細胞移植が新規治療法の一つとして期待されるが、前庭有毛細胞特異的分化誘導に着目した研究は殆ど行われていない。先行研究として、前庭有毛細胞への分化誘導(液性)因子を発現すると考えられた前庭由来細胞(VC)の培養上清を用いて、内耳前庭有毛細胞を選択的に創生することが可能な方法を報告した(Sakagami et al., BBRep, 2019)。そこで本年度は、選択的前庭有毛細胞分化に寄与する分泌性タンパク因子を同定し、前庭有毛細胞の選択的分化誘導法を開発することを目的とした。 出生直後のマウス(C57BL/6)より内耳を単離し、 前庭および蝸牛を分離後、前庭細胞(VC)および蝸牛細胞(CC)を培養した。VCおよびCCよりRNAを抽出後、RNA‐seqにより前庭/蝸牛における特異的遺伝子発現パターンを解析した。VCではCCと比較し502の遺伝子が亢進しており、クラスタリング解析の結果からは、細胞外マトリックス関連経路が分泌性因子として関与していることが示唆された。
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