研究課題/領域番号 |
23K16312
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
藤江 智也 東京理科大学, 薬学部薬学科, 講師 (20780886)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 重金属 / カドミウム / 鉛 / 内皮細胞 / 細胞毒性 |
研究実績の概要 |
一般に、血管の炎症性病変では様々な細胞内外のイベントが生じるが、これまで、内皮細胞の傷害や炎症応答に伴って高濃度のエネルギー分子(ATP・ADP)が放出されることにより、液相のヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)の大型分子種パールカンの合成が抑制されることを見出している。本年度は、ATP・ADPによる重金属の内皮細胞毒性の修飾とその機構を解析した。 まず、ATPの存在下における重金属毒性の変化を解析したところ、鉛による内皮細胞層の傷害はATPによって有意増強されることが明らかになった。その他の環境汚染重金属(カドミウム、ヒ素およびメチル水銀)による内皮細胞層の傷害には、そのような増強作用は認められなかったので、鉛毒性に対して選択性を有することが示唆された。ADPの存在下でも、鉛の内皮細胞毒性は増強されたが、アデノシンではそのような増強作用は認められなかった。このことは、ATP・ADPが作用するプリンP2受容体およびその下流シグナルが鉛の内皮細胞毒性に関与することを示唆している。一方、パールカンの発現を抑制しても、鉛の内皮細胞毒性に変化は認められず、細胞膜貫通型HSPGsのシンデカン-1およびシンデカン-4の発現抑制でも同様に変化は認められなかった。興味深いことに、これらHSPGs発現の抑制によってカドミウム毒性は増強され、デルマタン硫酸プロテオグリカンのビグリカン発現の抑制では、そのような増強作用は認められなかった。以上より、ATPの放出介したプリン受容体シグナルは鉛の内皮細胞毒性に関与し、HSPGsの減少はカドミウム毒性に関与することが示唆された。このような、血管病変の進展過程に生じるイベントは、重金属毒性に対する内皮細胞の感受性を変化させることが示唆され、その機構は重金属によって異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血管病変の進展に関与する2つのイベント(ATPの液相への放出とヘパラン硫酸プロテオグリカン合成の変化)による鉛およびカドミウムの内皮細胞毒性の修飾作用、およびその責任分子を明らかにした。それぞれのメカニズムは次年度に明らかにしていく必要があるが、このような生理的な環境要因が重金属毒性に対する内皮細胞の感受性決定に関与していることを示したことが大きな収穫であり、研究全体としておおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ATPによる鉛の内皮細胞毒性の増強する機構の解明 内皮細胞には、主にP2X4およびP2X7受容体が発現しているので、これらP2X受容体が、鉛による内皮細胞毒性を修飾するか明らかにする。一般的に、鉛の毒性は細胞内カルシウム量の異常に伴う小胞体ストレスがあり、一方のP2X受容体はカルシウムイオンチャネル型受容体である。そこで、このATPに増強作用が小胞体ストレス応答に関与するか、マーカー遺伝子GRP78/GRP94を評価するとともに、小胞体ストレス応答のセンサータンパク質(IRE1α、PERK、ATF6)を解析する。 (2)HSPGsによるカドミウムの内皮細胞毒性を修飾する機構の解明を明らかにする。 一般にカドミウム毒性に対する細胞の感受性決定には、カドミウムの蓄積量細胞内蓄積量および生体防御系の発現・活性が関与する。前者は金属輸送体ZIP8が、後者は生体防御タンパク質メタロチオネインが責任分子となる。そこで、HSPGs発現を抑制した内皮細胞におけるカドミウム蓄積量を測定するとともに、そのときのZIP8およびメタロチオネイン発現を評価することで、HSPGsの変化に伴うカドミウム毒性に関与する内皮細胞機能の変化を明らかにする。
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