研究課題/領域番号 |
23K16359
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
香田 将英 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (80827791)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 自殺予防 / 自殺対策 / 精神保健 / 公衆衛生 / 時系列分析 / COVID-19 |
研究実績の概要 |
初年度となる本年度では、当初の計画通りオープンデータの整形とデータベース整備を行った。データ整形はRを用いて行い、PostgreSQLでデータベースを構築した。現在、整備したデータベースを活用して、都道府県・市町村におけるCOVID-19流行前後の自殺リスク要因分析に着手している。 また、警察庁による2022年の自殺理由の集計方法変更が自殺統計データに与えた影響を評価するため、2010年1月から2022年12月までのデータを用いて分割時系列解析を行った。2022年の集計方法変更後は過去12年間の傾向に比べて、月あたりの自死理由が特定された事例が839件増加し、理由不明の事例が167人減少していた。この傾向は、自殺理由のカテゴリーすべてで一貫して認められた。集計方法変更の影響により、2022年前後の単純な比較はできなくなったが、理由不明の事例が減少したことから、中長期的にみれば今回の変更は現代の自死の理由解明につながることが期待される。本研究成果は、2023年12月にJAMA Network Open に掲載された。 さらに、いのち支える自殺対策推進センターの研究班と協働し、COVID-19後3年間の自殺死亡割合を性別と年齢層別に分析した。女性は2020年7月から2023年1月まで全年齢層で自殺者数が増加し、特に2020から2021年は10歳階級別で目立っていた。2022年以降は30から69歳と80歳以上で目立っており、30代女性で最も増加が大きかった。男性では、2020年の20代、2022年の50代と80歳以上で有意な増加が確認された。本研究では、パンデミックの長期的影響に加えて心理社会的影響も自殺割合の性別・年齢別パターンに影響している可能性を指摘した。本研究結果は2024年4月にPsychiatry Researchに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベース整備や分析に必要なGIS、R、Python、SQLなどの知識と技術について本研究代表者は習得済みである。また、これまでの共同研究から複数名の疫学、生物統計学、都市工学、精神医学の専門家と十分に連携可能な状況にあり、研究の遂行に問題はないものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
3年ごとの期間 (2014-2016年、2017-2019年、2020-2022年) に分け、都道府県-市町村の階層構造に配慮した階層ベイズモデルによる自殺リスク要因の分析を行う。従属変数は自殺死亡者数と人口データから値を出した期待死亡数の比を使用する。説明変数は市町村単位の失業率や個人所得、独居などの社会経済変数のほか、都道府県単位で精神保健データや、社会生活基本調査の社会参加状況などを変数に組み込み自殺との関連を明らかにする。 2014年から2019年のデータから「COVID-19流行がなかった」と仮定した場合の2020年以降の自殺リスク予測モデルを作成する。具体的には、2023年度の分析で明らかになった自殺要因や過去の研究から推定される要因を説明変数として、季節性や例年の傾向などの調整変数を含めた準ポアソン回帰モデルを作成する。日本全体と都道府県・市町村の2つの予測モデルを作成し、実際のデータとの差を比べることにより、COVID-19流行による影響がどの程度であったか推察することができる。最終年度では分析結果の可視化を目的にダッシュボードを作成、オンライン上に公開し、加えて2027年の大綱改訂に向けた提言書を作成することで、政策立案者が分析結果をもとに自殺対策計画策定を行うことができるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初の予算よりも減額のため、購入を予定していたワークステーションを変更せざるを得ず、計画段階の使用額と実際の使用額に差が生じたため。令和6年度の解析に係る費用に上乗せして使用する予定である。
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